障害者雇用を通じ地域・社会に貢献する農協を目指して
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事業所外観
1.事業所の概要
長崎県央農業協同組合(以下「JAながさき県央」という。)は、諫早農業協同組合、大村市農業協同組合、松原農業協同組合、東彼農業協同組合の4農協が合併し、平成12(2000)年4月に設立、現在組合員39,915人の組織である。事業としては、信用事業(貯金、貸出)、共済事業(JA共済)、営農指導、購買事業(生産資材、生活資材、農業機械、自動車・自動車整備、燃料、Aコープ、葬祭)、販売事業(米、麦、大豆、馬鈴薯・茶・みかん、カーネーションや肉牛・肉豚等の畜産品、直売所)など幅広い事業を展開しており、
「3つのありたい」
- 組合員に信頼される誠実な農業協同組合でありたい。
- 地域住民・団体・取引先に信頼される誠実な農業協同組合でありたい。
- 職員及びその家族に信頼される誠実な農業協同組合でありたい。
を経営理念に掲げ「喜ばれることを喜びとする」農業協同組合をめざしている。
2.障害者雇用の取組
障害者の雇用については、企業として社会貢献を行うという方針の一環として進めており、障害者の雇用は、平成12(2000)年の合併前から各農協で雇用を実施しており豊富な経験を持っている。JAながさき県央は、業務内容が多岐にわたり、そこで働く障害のある職員の職種が豊富であることが障害者雇用の強みとなっている。例えば、事務、清掃、Aコープバックヤード、農作業の手伝いなどである。このため採用時は、求人に応募した障害者の障害の状況に応じて仕事を振分けることができる。
近年は、特別支援学校(以下「支援学校」という。)との連携を強めており、主に農作業の職種に障害者雇用の拡大を図りたいと検討している。
また、JAながさき県央の総合企画課長(前総務課長)が支援学校の評議員を務めた関係で、障害者雇用支援を積極的に進めてきており、支援学校からの職場実習の受け入れを開始し、平成28(2016)年度から支援学校の卒業生の採用を始めた。平成28(2016)年度に1人、平成29(2017)年度に2人を採用し、平成30(2018)年度も清掃、Aコープバックヤードなどの職種に2人の採用を予定している。そのほかにも、支援学校の卒業生の転職の相談が卒業生の親から支援学校経由であるとのことである。現在の総務課長もその路線を引き継いで支援学校の卒業生の雇用拡大を図っている。
障害のある職員の採用後のサポートにおいては、支援学校が実施している就職した卒業生への定着指導、また、地域障害者職業センター(以下「職業センター」という。)、障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)の支援、そして、必要な場合にはジョブコーチの支援を受けている。
新たに採用した障害のある職員に対する施設の整備についても、トイレの改装、車いす用のトイレの設置、スロープの設置など、障害の程度に合わせて対応している。
採用の判断は、トライアルと呼ばれる職場実習が主体である。実習で障害の程度や作業の適性などを確認し、本人の意向なども踏まえ、事務、清掃、Aコープバックヤード、農作業などの職種に配属を決めている。
採用後の障害のある職員の教育・指導は、各現場の先輩、同僚がOJTにより行っている。障害のある職員をサポートする特別な組織は作っていないが、障害のある職員に関する情報交換は職制を通じて必要に応じて行っている。
次に、平成28年に採用された2人(AさんとBさん)について紹介する。
Aさんは支援学校からの最初の採用者(平成28年3月入組)であり、清掃の仕事をしている。知的障害がある方で、支援学校にて清掃技能を習得し、在学中に2回の実習(1回当たり3週間程度)を実施し、清掃職で採用となった。
勤務は8時30分から17時までで、週5日の勤務である。作業の内容は、JAながさき県央の玄関、トイレの清掃、ゴミ回収などが主体である。Aさんは清掃の仕事は楽しいとのことである。
Aさんは自宅から通勤しており、バスを利用しているが停留所が遠く片道30分以上の時間がかかっている。自動車運転免許の取得は難しいとの話であるため毎日の通勤時間が少々負担となっている。
毎日の作業については、朝から夕方までの一日のスケジュールが記載され、一週間分まとまった清掃作業のスケジュール表が設定されており、Aさんはそのスケジュールに沿って仕事を行っている。具体的な作業手順は、同僚からその都度聞きながら覚えていくのではなく、前述のジョブコーチに支援を依頼し、最初から最後までの作業手順がAさんに分かるように作成した手順書を活用しながら覚えている。また、仕事が分からなくなったときにも相談に乗ってもらっている。Aさんが、JAながさき県央にとって初めての支援学校の卒業生であるため、支援学校、職業センター、支援センターが連携し、就業状況を見守りながらサポートを行っている。
清掃作業は、2人でチームを作って行っている。Aさんとチームを組むのは年配の障害のない職員で、障害のある職員と共同で仕事をすることに対しての理解があり、知的障害についての理解もあり、チームでの仕事は順調に進んでいる。
近々、障害のある職員が同じチームで1人増える可能性がある。Aさんとしては入社以来2人で仕事をしてきており、新しい職員との3人のチームは初めてである。チームワークがどのようになるのか少し不安があるが、今後も清掃の仕事を続けることを希望している。
Bさんの職種は事務職で、平成28(2016)年4月に採用され、主にパソコン入力を行っている。障害名は、心臓機能障害である。前職の健診で病気が分かり手術をした。手術後の自覚症状はあまりなく、走ったり、階段を上ったりしたときに少しきつい程度である。いまは、定期的(土曜日)に掛かり付けの病院で診察を受けている。診察の結果、問題がある場合は紹介状をもらって大きな病院に行っている。
勤務時間はAさんと同じであるが体力的には、特に問題はない。今年から自動車通勤も始めたが運転時にトラブルになりそうなこともないという。
前職は長崎県外であったが、子供の就学時期に合わせて退職、長崎へ帰省した。その後、前職で従事していた工場現場での作業から職種を変えるためパソコンを習い、ハローワークで求職活動を行った。求職の条件としては、障害があること、子供がいること、学童保育が4月から始まること、福利厚生が充実していることなどを希望していたが、ハローワーク主催の障害者就職説明会に出席し、JAながさき県央の求人に応募した。求人に応募するときも、障害があることを伏せて応募するか、障害があることを告知して応募するか迷ったが、ハローワークの勧めもあり障害があることを告知して応募した。いまでは、障害を告知して採用になったことにより、体調が悪く早退したいときなど、事業所側から理解を得られやすくなって、精神的に楽になっているという。
Bさんの職場は13人で構成。上司の職員はBさんに対して他の職員と同じように分け隔てなく接しており、Bさんも仕事で分からないときは周りに気軽に聞ける環境にある。
Bさんの職場では障害のある職員はBさんを含め3人が所属している。その中で身体障害のある職員に対して仕事の量を本人の状態に応じて調整するなどの事業所側の配慮がある。
Bさんは、昨年10月に現在の仕事に変わっており、今後は早く仕事を覚え、担当以外の仕事も手伝うことができるよう頑張っている。
作業の様子
3.今後の展望と課題
JAながさき県央では、今後も法定雇用率以上の障害者の雇用を目指している。
そのためには、農作業での障害者雇用を進めている。
農作業の仕事内容は、農家や、農業事業所などの農作業を請け負い、畑の土の掘り起こしなどの農作業を手伝う仕事であるが、人手が足りていない農家、事業所では大変喜ばれており、JAながさき県央としても拡大していきたいサービス(事業)として捉えている。
この試みは、県内の他のJAでは実施していない試みである。
この作業には、体力のある職員が適しており、重量挙げの選手であった体力に自信がある知的障害のある職員が仕事を担当している例がある。そして、農繁期には農業の仕事、農閑期にはAコープバックヤードの仕事を行うというJAならではの事業を活かし、年間を通した働く場の確保に向けたサイクルが可能となっている。
その他にも、障害のある職員の働く場の確保に向けた組織的な取組を進めている。ひとつには、農作業に従事する職員を増員し、県央の農業に貢献できる組織を作り上げることを検討している。
また、各部署の係に配置していた清掃作業に従事する障害のある職員を、JAながさき県央の全ての事業所に対応する清掃班として配置する組織作りを検討した。しかし、管理上の負担など、検討すべき点があることから、今後の検討課題となっている。
そうした様々な検討や試みを通じて、障害者雇用を進めていくこととしているとのことである。
執筆者:独立行政法人高齢・障害求職者雇用支援機構
長崎支部 高齢・障害者業務課 麻生 香
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