すべての人に優しいホテルを目指しています
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事業所外観
1.事業所の概要
ホテル日航大分 オアシスタワー(以下「当ホテル」という。)は株式会社エフ・ティー・シーホテル開発(以下「当社」という。)が運営するホテルで、旧大分県立病院跡地の再開発により平成10(1998)年に開業した。同地区のiichiko総合文化センター、大分県立美術館、大分市中心部の商店街等とともに大分市の文化・商業エリアを形成している。「沿革」にあるように、当初は「第一ホテル大分オアシスタワー」として開業したが、平成29(2017)年12月に「ホテル日航大分オアシスタワー」としてリブランドオープンしている。当ホテルは、複合施設「オアシスひろば21」内に高さ101m、21階建て、特徴的な外観を有する大分市のランドマークとしても名高い。レストランや婚礼施設等のリニューアルと「出会うたびに優しい 出会うたびに新しい」をコンセプトに、ハイクオリティなサービスの提供を行っている。
「沿革」
平成10(1998)年 旧大分県立病院跡の再開発で建設された「オアシスひろば21」内に、当社の運営により、同年9月に第一ホテルチェーンの第一ホテル大分オアシスタワーとして開業。 平成12(2000)年 第一ホテルから全日空ホテルズにフランチャイズ契約を変更。 平成24(2012)年 全日空ホテルズとのフランチャイズ契約終了により大分オアシスタワーホテルにリブランド。 平成29(2017)年 12月にオークラニッコーホテルマネジメントと運営管理契約し、ホテル日航大分 オアシスタワーにリブランド。 2.障害者雇用の経緯
当社としても障害者雇用は、大分の地場企業としての社会的責任(CSR)から、積極的に推進していきたいとの考えがあった。しかし、ホテル業(接客業)ということで、障害のある社員にどのような仕事をしてもらえばよいのかなど検討する日々が続いた。
障害のある社員を雇用するきっかけとなったのは、大分障害者職業センター(以下「職業センター」という。)にホテル業としての当社が障害者雇用を推進する上での課題点、方法等を相談に行ったときからだった。職業センターにはジョブコーチ支援等の様々な支援制度があり、企業に対しても仕事の切り出しから職場定着までの支援をしているとの説明を聞き、これなら当社も安心して障害者雇用を取り組めると考え、スタートした。
3.取組の内容
- ア.
- 職業センターとの事前検討(仕事の切り出し、細分化)
ホテル業である当社が、障害者を雇用する上で仕事の切り出しや現場の責任者をどうするかなどを職業センターのカウンセラーやジョブコーチとともに検討を重ねた。カウンセラーからは各仕事を作業別にできるだけ細かく分けて切り出し、「この仕事だったらできる」、「やれそうだ」というものを積み上げて障害者の担当業務として再編成してはどうかとのアドバイスがあった。これまでは清掃の仕事、調理の仕事という具合に大まかに仕事を見ていたため、当社では障害者にやってもらう仕事はないと思い込んでいた。アドバイスをもとに一つひとつの仕事を細かく見ていくと、思いのほか仕事の切り出しができるようになってきた。例えば清掃の仕事一つとってもロッカーの清掃、ゴミを回収し所定の収集場所に持っていく仕事、シュレッダーの仕事、場所を区切っての床の清掃の仕事等があることがわかってきた。これらの仕事を積み上げていけば障害者にもできる仕事があるのではないかと考えるようになった。そして、切り出した仕事を担う人材のイメージ作りを行い、勤務条件等を固めたうえで、ハローワークでの募集を開始した。
- イ.
- 求人から面接、そして採用へ
ハローワークからの応募者に対しては、仕事の内容、当社が期待する仕事の水準などを細かく説明した後、希望する仕事の内容を詳細に聞き取り、事前に検討していた人物像に合致する障害者に絞り込んで最終面接選考を行った。面接には応募者の精神的な負担を考えて、できるだけ少人数かつ落ち着いた雰囲気の場所を設定した。また、当社は、障害者の面接に慣れていないこともあり、応募者の支援機関である職業センターのカウンセラーに同席を求め、具体的な障害特性や配慮事項などについての助言を得た。選考の結果、精神障害のある社員として二人を採用することにした(男性Aさん:20歳代、勤続3年、女性Bさん:30歳代、勤続2年半)。ただし、受入れの時期は、社内の受け入れ体制を整える必要もあり、半年間の準備期間を設けた後の入社とした。
- ウ.
- トライアル雇用の活用
採用に当たっては、実際に現場で働き、「この仕事だったらやれそうだ」、「やってみたい」、「この会社で働きたい」と本人が考える期間が必要だと判断して、ハローワークの制度である3か月間のトライアル雇用でスタートした。トライアル期間中に二人とも仕事にも慣れ、積極的に仕事をこなすまでになり、トライアル雇用の終了を前に、再度、本人、家族、職業センターと話し合い、正式雇用に移行した。
- エ.
- 障害特性、仕事の内容
○Aさん:男性、20歳代後半
- 障害特性:不安があるときは落ち着きがなくなる、忘れ物が多くなるなどが見られる。
- 担当業務:館内清掃(清掃区域を細分化)、シュレッダー、ゴミ回収(調理場、サロン、フロント等の場所も細分化)、ちらし折りなどの業務
○Bさん:女性、30歳代前半
- 障害特性:感情がでにくい、表情が固くなるなどが見られる。
- 担当業務:パソコン入力等の事務作業、当日の宴会場のスケジュール表を作成し、案内板に掲示する印刷物の作成等の業務
- オ.
- 支援の仕組み作り、職場定着に向けての取組
- (ア)
- サポート体制
現場の責任者だけでは対応が難しいため、周りのスタッフにもある程度の情報を伝え、気になるところや課題があればすぐ管理者に情報が入るように全社的なサポート体制を整えた。例えば、勤務終了後に本人が記入する業務日誌に、「今日の仕事で何か課題はなかったか」、「体調の具合はどうだったか」、「落ち着いて仕事ができたか」などを10段階で評価して提出することとしている(口頭では伝えにくいことも書面であれば遠慮なく本音が聞けるのではないかと考え、業務日誌の制度を設けた)。提出された業務日誌をもとに「管理者が知っておくべきこと」、「早急に改善が必要なこと」などを把握できるようにした。また、問題が生じたときに、タイムリーに社内で検討し、解決できない事案の場合には、支援機関を活用し、様々な情報や方法を収集し、解決策を検討するようにしている。
- (イ)
- 定期的な休憩の確保
両名とも長時間の連続した勤務は難しいことから、定期的な休憩をとれるための配慮をした。
○Aさん:仮眠ができるベッドで休憩をとっている。休憩についてはジョブコーチとも相談して、一日のスケジュールの中で休憩時間を複数回設けるようにしている。仕事の間に休憩を挟み、長時間連続して仕事をしないように心がけた。気分が落ち着いたら次の仕事に向かうという具合に、安定した精神状態で仕事ができる環境を整えることを最優先に考えた。
○Bさん:集中しすぎると表情が固くなったり、考え込んだりするため、意識して、小休憩として業務(職場)から離れる時間を設けている。ホテルに接続する施設には静かで落ち着ける場所があるため、そこで休憩場所としている。ホテル内の従業員スペースよりも、業務と関係のない場所がBさんにとって、気分が落ち着き、休まる場所のようだ。休憩場所を柔軟に対応したことが安定した勤務につながったと思っている。
- (ウ)
- 勤務の弾力性
○Aさん:感情の起伏が見られるため、Aさんのその時々の調子を見極めて適宜休憩を挟みながら、気持ちが落ち着いたら次の仕事という具合に日々の仕事を進めている。Aさん専用のスケジュール表を作成し、一つの仕事ができたら次の仕事に気持ちが向かえる仕組みを作った。Aさんもその表を見て、次はどの仕事を、どこでするのかがはっきり分かるため、その都度、表に目を通している。管理者もAさんが今どこでどのような仕事をしているのかが一目で分かる工夫もしている-(Aさんのスケジュール表に今現在の仕事の箇所にマグネットを貼って目につきやすいようにしている)。毎週木曜日が通院日のため、その日を公休日に設定してスケジュールを組んでいる。現在一日6時間を目標に弾力的に勤務時間を設けているが、感情が不安定な日があるため、時々欠勤や遅刻などが見られる。今後もAさんの体調や意向を踏まえ、Aさんの親やジョブコーチ等とも相談しながら、今後の方向性などを決めていきたいと考えている。
○Bさん:非常に真面目に仕事に取り組んでおり、Bさんの意向で勤務時間をフルタイムに変更した(9時00分~17時30分の勤務)。当初はBさんの負担を少しでも減らし、職場に慣れることを最優先に考えて一日5時間の勤務からスタートした。徐々に仕事や職場環境にも慣れてきたため、Bさん、ジョブコーチを交えて相談し、勤務時間をフルタイムまで伸ばした。周りのスタッフもBさんの仕事は丁寧でフルタイムにしてもらうと助かるとの意見もあり、職場環境の整備等の条件が整っての勤務時間延長となった。
(Aさんの1週間のスケジュール)
(Aさんの勤務時間管理表)
*就業前・就業後欄に10段階で
自己評価(1悪⇒10良)(Aさんの業務確認表)
*当日の仕事のでき具合を○△×で自己評価
4.今後の展望と課題
職業センターのジョブコーチ支援により精神障害のある社員二人を雇用したものの、「どのようにしたら安定して仕事を続けてもらえるのか」、「仕事をする上で何か課題はないか」、「他のやり方はないのか」などの試行錯誤の繰り返しだった。障害者雇用の経験が少ない当社にとって、職業センターのジョブコーチ支援は非常に心強かった。ジョブコーチ支援なくして現在の障害のある社員の職場定着はなかったと思っている。
会社として障害者雇用に対する意識は変わってきているが、接客業であるが故に仕事の切り出しの難しさ、日々多忙の中で責任者を誰にするのかなどこれからの課題もまた山積している。障害者をただ雇用すれば良いという考えでは最終的に行き詰まることは明らかだ。障害のある社員も貴重な戦力となり得ることがこの3年間を通して明らかとなった。肝心なのは障害のある社員と障害のない社員とを区別して見るのではなく、共に働く同僚として、企業を支える人材として考えることが大切だ。接客業の頂点に位置するホテル業を経営する当社にとって、大切な顧客と接するのは人(社員)であり、その社員がやりがいを持って仕事をすることが顧客の満足につながり、企業としても成長することができると考えている。「出会うたびに優しい 出会うたびに新しい」をコンセプトに、人を大事にする風土を築いていくことで、障害の有無に関係なく共に成長する企業を目指していきたいと考えている。
執筆者:株式会社エフ・ティー・シーホテル開発
人事・総務マネージャー 長谷部裕子
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