事業所外観

1．事業所の概要

太洋リネンサプライ株式会社（旧社名は有限会社太洋リネンサプライ。以下、「当社」という。）は、昭和58(1983)年、折からの新婚客や離島ブームにのって開業した大型観光ホテルのクリーニング需要に応えるため、美崎町のホテルミヤヒラ洗濯部を発展的に解消、現在の地に移転して創業した。

開業以来、34年余りが経過している。多い時で従業員35人中16人の障害のある従業員が働いており、本当に彼らの働きなしに会社の存続はありえなかった。現在は、従業員86人中14人（創業時から就労している1人を含む）の障害のある従業員が元気に就労している。

当社では、100年後も「活力ある明るい職場環境づくり」につとめたいとの思いを込め、以下の企業理念を定めている。

• 一、　報告・連絡・相談の徹底
• 一、　あいさつの徹底・率先垂範
• 一、　整理・整頓・清掃・清潔・躾
• 一、　地域社会への貢献

～働いて役に立つ会社こそが人間を幸せにする～

2．障害者雇用の背景、経緯

今からさかのぼること50年余り前の昭和40（1965）年頃、沖縄県内では風疹の大流行があり、その後遺症として多くの子供たちに難聴が残った。その子供たちが成長し、学校卒業後の進路（就労）が問題とされた際には、就労機会の確保についての企業に対する社会的な要請がなされ、当社においても卒業生を積極的に採用した。卒業生個々人の当社での日々の活躍は、在校生や家族の希望・目標でもあり、また彼らの仕事ぶりは当初より地域（顧客）からも高い評価を頂いており、当社で働く従業員一人ひとりの誇りでもあった。なお、クリーニング業は沖縄本島の実績からして、障害者の就労に向いている職場の一つでもある。

当社における障害のある従業員の仕事ぶりは、素晴らしいものがある。仕事に対する情熱と責任感は障害のない従業員に比較しても遜色なく、定着率も高く、戦力の一員にもなっている。

観光産業は、土曜日、日曜日、祝祭日等に観光客がどっと押し寄せ、24時間、年中無休のサービスで対応していることもあり、厳しい労働条件ではあるが、従業員は誇りを持って忍耐強く、まじめに働いている。

3．障害者の従事業務、職場配置

クリーニングの仕事は、得意先からのリネン材の回収、仕分け、計量・投入、洗い、脱水、乾燥、仕上げ、結束・検品、一時保管、納品が一連の流れになっている。

それぞれのセクションに部門長（リーダー）が配置され、作業を行っており、上記流れの中でそれぞれ障害のある従業員は職業適性や能力等に応じて業務を分担している。

具体的には、次の5つの工程に分かれている。

（1）回収物の仕分け

シーツや枕カバー、布団カバーの仕分け業務。また、まれに時計やネックレスなどの貴金属などの巻き込みがあることから、そのチェックを行う。

（2）計量・投入

大型自動連続洗濯機へ50㎏単位でリネン材（洗濯物）の投入作業を行う。

（3）ロール機投入作業

洗濯・乾燥され、ラインから出てきたリネン材（洗濯物）を仕上げ機の中にセットする。

（4）検品結束作業

仕上がった製品にシミや破れ、シワがないかを機械により点検し、その後決められた単位で結束される。

（5）配送補助

配送ドライバーと一緒に各ホテルのリネン庫への納品と使用されたリネン材の回収業務を手伝う。

4．取組の内容と効果

（1）採用から配置までの経緯

当社では、以前に障害者雇用の取組として、支援機関からの紹介で職業能力開発校の訓練生の受入れを行った。その際には、支援機関の担当者の同席で面接を実施し、初めの1週間ほどは、枕カバーのロール機への投入作業などの軽作業を行った。その後は、個々の職業適性や得意・不得意を見極めた上で配置部署を決め、3か月間の訓練を実施した。

（2）採用後の取組

当社では、毎日8時45分からラジオ体操を実施し、各セクションで朝礼を行っている。その際に部門長は、当日の業務の流れや操業時間の確認、従業員の体調を確認するように心がけている。

（3）年1回の家族を交えた面談の実施

平成29（2017）年冬場には、家族を交えた個別面談を実施した。ここ暫くは実施していなかったが、家族には大変好評だった。起床時間や朝食の有無などの基本的生活習慣の確認や休日の過ごし方、趣味や日頃から興味のあることについて家族を交えて話を聞くことで、改めて障害のある従業員一人ひとりの様子を確認し理解を深めることができた。

また、家族や本人には日頃の職場内での様子や障害者職業生活相談員（以下「生活相談員」という。）からみたそれぞれの長所をコメントとして添えたことも、家族から大変好評であった。結果として個人のモチベーションのアップと生活相談員との良好な人間関係を深めることができた。そのほかにも、毎年の新年会や忘年会、グランドゴルフ大会やBBQ大会などの懇親会を仲間意識の向上を図り、仕事に対する連帯意識を深めるために開催している。

（4）設備投資による短期的な効果

平成27（2015）年、平成29（2017）年の設備投資により作業環境の改善を行った結果、生産力が向上し体調不良者の減少や腰痛や足腰の疲労を訴える従業員も減った。また、職場への定着率も引き続き安定している。

（5）夏場の体調管理への取組

夏場の体調管理、特に、熱中症対策の一環として、工場内のスタッフ配置場所にスポットクーラーの設置と冷水器、製氷機の設置を行った。その結果として、生産力も向上し、体調不良者の減少や腰痛や足腰の疲労を訴える従業員も減った。

5．障害者雇用のメリット

（1）障害のない従業員同士のコミュニケーションが密になり雰囲気が良くなる

従業員同士の意思疎通が密になり、やわらかい雰囲気の中で落ち着いた職場環境ができる。

（2）新しい発想を取り入れることができる

多様な価値観や発想は、新しい風を呼び、創造性の向上が期待できる。

（3）社会貢献ができる

企業の社会的な責任を果たし、地域や社会の信頼を得ることができる

（4）個々の特性によっては障害のない従業員以上の働きが期待できる

個々の障害特性に合わせた職務内容を検討し、訓練によって障害のない従業員以上の作業効率を生み出せる。

（5）安定した生産力が得られる

仕事をおぼえるためには時間がかかるが、長期的な観点では定着率が良いため戦力として安定した生産力が期待できる。

6．個別の特性や課題と対応事例

（1）Aさん（知的障害・男性・46歳・勤続27年目）

リーダーとしての気質があり、他の同僚を引っ張っていこうという意識が高いので、リーダー的立場で現場をまとめている。その一方で、Aさんの積極性が時に空回りして作業手順を誤って自己判断してしまうことがあった。その場合は、部門長が現場の状況や全体的な流れを確認している。

主な作業担当は、回収物（シーツ、枕カバー、布団カバー）の仕分け業務。業務用洗濯機によるナプキン、クロス、ガウン等の洗濯業務や配送ドライバーの補助業務に従事している。

（2）Bさん（聴覚・言語障害・男性・52歳・勤続34年目）

体力や腕力があり、動作も機敏であるのでシーツ投入作業を担当し、生産効率をあげることができた。聴覚障害があり、コミュニケーションを取ることが難しく、作業内容の指示が困難だった。そのため、その都度筆談やジェスチャー、読唇（ゆっくり話して口の動きを読み取る）等で指示を伝えている。以前は、洗ったリネン材の乾燥機への投入や取り出しなどの比較的体力を要する仕事をしていたが、現在は、機械化による省力化が進んだため主にシーツの投入作業に従事している。

シーツの投入作業の様子

7．各賞受賞の経緯内容

(1)平成7（1995）年には障害者雇用の重要性を深く認識し、積極的に障害者雇用の促進と職業の安定に寄与したことで、「重度障害者多数雇用事業所認定工場」として、当時の労働大臣より表彰を受けた。創業より15年目に当たり、関係者の理解と協力に支えられ、このような立派な表彰を受けたことは、当社はもとより働く従業員にとっても大変名誉なことであり、全従業員の自信と励みにつながった。

(2)平成9（1997）年沖縄県障害者・高齢者雇用促進大会が開催されBさん（当時31歳）が優良勤労障害者として沖縄県知事賞を受賞した。Bさんは昭和59（1984）年3月に北城ろう学校を卒業。その年の9月に入社している。入社以来、病気のとき以外は休まず仕事に励んでいた。現在でも、他の従業員の良き模範として活躍している。午前9時に出勤し、夕方17時20分まで4週7休で働いている。担当は、ホテルシーツの仕上げ部門担当で忙しく働いている。

(3)平成20（2008）年10月沖縄県の優秀勤労障害者表彰でAさん（当時37歳）が、沖縄県知事賞を受賞した。Aさんは、平成4（1992）年4月に採用され無遅刻無欠勤で信頼もあつい存在で、仕事内容も幅広く、洗い場の管理、シーツの仕上げ、設備メンテナンスなどを担当している。現在も、家族の大黒柱として家計を支え、働いている。

8．今後の展望と課題

「誰もが暮らしやすい地域」を目指して、障害の種別に関わりなく、障害者が地域で自立した日常生活・社会生活を営むことができるような地域社会づくりを進めていくことが必要である。

障害者雇用の課題としては、短期的には加齢による体力の落ち込みなどから、家族を交えての話し合いや地域支援センターなどの関係機関の支援を受けながら、体力に合った勤務時間の見直しや就業日数の調整を進める必要がある。

また、近年、特に20代、30代の比較的若い年代の従業員においては、発達障害や気分障害のような特徴が見受けられることから、当社としても、「労働者が安心して快適に働くことができる環境づくり」に今まで以上に取り組む必要がある。

当社としても職場全体の障害者雇用に関する理解を深めるために、年に1～2回の個別面談や各種講習会の受講、社員同士の親睦を図るための職場内の懇親会、レクレーション大会を実施することで、職場内の障害者雇用に係る理解を進めることとしている。

執筆者：太洋リネンサプライ株式会社
取締役統括部長　三木誠