支援機関との連携やキャリアアップで職場定着と雇用拡大を実現
- 事業所名
- 有限会社 トムセカンド(法人番号 1420002007966)
- 所在地
- 青森県八戸市
- 事業内容
- 飲食サービス業(日本マクドナルド株式会社フランチャイジー)
- 従業員数
- 139名
- うち障害者数
- 11名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 ハンバーガー製造販売、清掃等その他付帯業務 肢体不自由 2 同上 内部障害 2 同上 知的障害 2 同上 精神障害 3 同上 発達障害 1 同上 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害、発達障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
有限会社トムセカンド(以下「同社」という。)は、日本マクドナルド株式会社(以下「マクドナルド」という。)のフランチャイジーとして平成2年8月青森県八戸市に設立し、現在では、八戸エリア4店舗、下田・三沢エリア2店舗、十和田・むつエリア3店舗で事業を展開。地域に根付いた愛される企業として、地域の皆様と良いつながりを持ち、社会に貢献したいとの思いから、『常に四方良しの精神を持ち続ける会社』、『既成概念に捉われず知恵と工夫でチャレンジし続ける企業』の企業理念を掲げ、日々、社員一人一人がこの姿勢を貫くための努力を重ねている。
(2)障害者雇用の経緯
同社はこれまで障害者雇用については特に門戸を閉ざしているわけではなかったが、障害者の実雇用率は法定雇用率に達していなかった。一方、障害者の雇用は店舗スタッフである「クルー」で進めていたが、クルーは高校生アルバイトを中心に採用していた経緯があった(クルーについては、後出の「2.取組の内容」の「(2)キャリアアップの体制」で説明)。しかし、昨今の少子高齢化問題や人材不足問題のほか企業としての社会的責任を果たしていくとの経営理念により、シニアや障害者の雇用を積極的に進める方針が平成24年に打ち出された。その方針に基づき、障害者雇用については、就労支援機関を活用したことやキャリアアップが図れる体制を整え障害者雇用の促進と定着に取り組んだところ、平成29年は障害者の法定雇用率を達成した。
本稿では前述の方針に基づく同社の取組について紹介する。
・以前は高校生アルバイトを中心に採用していた
↓
・シニアや障害者の雇用を積極的に進める方針を打ち出す
↓
・就労支援機関を活用し、また、キャリアアップが図れる体制を整え、
障害者雇用の促進と定着に取り組む
↓
・平成29年は法定障害者雇用率を達成2.取組の内容
(1)委託訓練の実施と支援機関との連携
- ア.
- 委託訓練について
今回の取組を始める前から障害者雇用の経験や実績はあったものの定着が図れていなかったため、障害特性の理解と対象障害者に合わせた配慮、受入れ体制をどのように整備し実施していけば障害者雇用の促進が図れるか検討していたところ、障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)から「障害者の様態に応じた委託訓練」(以下「委託訓練」という。)の紹介を受け、支援センター利用者1名(発達障害のある方)を対象に3か月間の訓練を実施することとした。
- イ.
- 委託訓練の実施に向けた準備
- (ア)
- 委託訓練を実施するにあたり、実施前に対象障害者の障害特性の理解や情報を支援センターと同社が共有していくことが重要であると考え、訓練時間や訓練内容、コミュニケーションの図り方、支援の方法などについて打合せの時間を設け、訓練に向けた準備を行った。
- (イ)
- 委託訓練期間中の作業内容については、調理スペースの清掃作業から始まり、作業時間や作業状況を見ながら段階的に調理補助などの作業を加えて行くこととした。
- ウ.
- 委託訓練の実施
- (ア)
- 作業手順などの指示・説明については、障害特性に配慮した指示出しや説明の仕方について支援センターのアドバイスを受けながら、担当マネージャーが視覚で理解しやすい写真や図解化されたマニュアルを準備するとともに、一日の作業確認表を本人に提示し、口頭で説明後、実際に見本を見せながら解りやすい指示などを心掛けた。
- (イ)
- 1日の訓練終了時には、進行表や面談を通して振り返りを行い、体調や仕事上での疑問点や問題点などがないかを把握するとともに、良かった点や改善点の確認を行ない翌日への動機づけや次の目標や課題を設定した。
- エ.
- 支援センターとの連携
- (ア)
- 訓練実施前や訓練中において、支援センターと対象障害者に対する障害特性や就労状況などに関する情報共有や共通認識を図ることに重点に置いた。その際、事業所が対応できないこと(例えばシフトを作成したが、体調管理上、本人への確認だけで良いかなど、第三者からの意見が必要なときなど)についてはすぐに相談を行い、必要に応じて対象障害者と支援センターを交えた面談も行うなど、早い時点での不安解消や問題解決ができるよう連携体制を整備した。
そうした準備や作業指示、支援センターとの連携などにより、訓練は大きなトラブルなく、順調に実施できた。
- (イ)
- 訓練終了後、対象障害者との面談、支援センターと訓練の振返りを行った。同社としては訓練の状況から採用は可能と判断し、対象障害者も就職を希望する意志を示し、支援センターとしても就職・定着に問題はないと考えた。そのため、ハローワークと連携しながら採用に向けた相談、手続きなどを進め、24年6月に「クルー」として採用となった。
- (ウ)
- 採用後もより良い職場環境の整備や定着のため、対象障害者と支援センターとの定期面談などにおいて情報共有するとともに、必要があるものについては連絡を取り、事業所においても対応できるような体制を整備した。
(2)キャリアアップの体制
- ア.
- 個別の目標設定
お客様へより良いサービスの提供と自身が成長していくために、障害の有無に関わらず従業員全員が3か月毎に各自の目標を立てている。そして、実践・達成できたか自己評価と企業評価を行うとともに面談を実施。障害のある従業員と事業所側の双方で業務内容の振返りを行い、できている作業、もう少し時間を掛けて習得した方が良い作業などを明確にし、共通の認識を図り次の目標やキャリアアップに繋げている。
- イ.
- 不安感などへの対応における支援センターとの連携
業務内容に関する質問等に関しては積極的に行えるが、失敗による自責傾向があり不安や問題を自分から話せない障害特性により、障害のある従業員の不安感や落ち込みが大きい場合や事業所で対応できない場合には、すぐに支援センターへ相談できる体制とした。相談後は必要に応じて支援センターと本人の面談や三者での面談を行ない、問題解決に向けた体制づくりを行っている。
- ウ.
- ステップアップ
トレーナーやマネージャーとも情報の共有を図り、次の目標やキャリアアップに繋がるような指導や計画を立てている。目標設定と面談を行い1つ1つの作業を確実にステップアップしていくことで、「クルー」から「トレーナー」(クルーにトレーニングを行うことが主な役割)への自然なキャリアアップに繋がり、そのことで対象障害者の自信となり、職場定着へも繋がっている。
注:マクドナルドではアルバイトスタッフのことを「クルー」と呼び、複数の職種がある。「クルー」は全員がここからスタートする職種で調理・接客などさまざまな仕事がある。「トレーナー」は前述のとおりクルーにトレーニングを行うことが主で、クルーが力を発揮できるようにサポートを行う。他にも「スウィング・マネージャー」や「スター」がある。
- エ.
- 競技大会への参加
年に一回、マクドナルドのグループ内全店のクルーを対象に開催される「オールジャパンクルーコンテスト」という部門毎の競技大会参加を勧めることで、作業内容の理解を深め、意識して作業を行うようになり、スキルアップやキャリアを積み重ねていけるような環境作りを行っている。
コンテストは店舗の推薦で選出されるため、選出されることがクルーの自信となり仕事への意欲を高めることができている。
調理部門での作業風景1
調理部門での作業風景2
(3)定着のための配慮
- ア.
- 勤務体制(勤務日・時間)について
通常は他従業員の希望就業時間などを考慮しながら勤務シフトを作成するが、障害のある従業員の場合は本人と話し合い、障害特性に配慮した時間帯を設定している。また休日は週2回を基本に、障害特性によっては2、3日毎の休日を設定するなど、疲労の蓄積がないように配慮するとともに固定化することで体調を崩すことがないように勤務体制を整備した。
- イ.
- 休憩時間について
積極的にコミュニケーションを取ることが苦手な障害特性がある方が、孤立することのないようにとの配慮から、特に個室等の用意はせずに対象障害者の状況を見守りながらリラックスして休憩できる状態でかつ自然に会話にも入れるような環境作りを心掛けている。
- ウ.
- 受入れ体制について
店長ほか担当マネージャーへは、障害についての情報共有は行うが、マクドナルドの社風として、性別や国籍、障害の有無を超えて多様な人材を積極的に受け入れる「ダイバーシティ&インクルージョン」が根付いており、一人ひとりの個性として受け止めながら業務をおこなっている。そのため、障害特性ではなく、個人個人に合せた指示出しやコミュニケーションについて共通に理解しているため、ごく自然に障害のある従業員に合わせた配慮がなされており、スムーズに業務ができる体制が確立されている。
- エ.
- 店舗内の情報共有について
各店舗は時間帯により責任者が異なるが、各時間帯の責任者へ必要な情報が連絡事項として伝達されているため、いつどういう状況であっても障害のある従業員に関する勤務状況や職務に関する情報についても共有できる体制としている。さらにすべての従業員も連絡事項に目を通してから勤務に入るため、臨機応変に対応できるような仕組みとしている。
3.取組の効果
- (1)
- 支援機関(支援センター、ハローワーク、教育機関など)の具体的な助言やアドバイスを受けながら、委託訓練や職場実習などを通じ実際に職場で仕事を経験してもらうことにより、個々人の障害特性に合せた指導などの体制が構築できたことや支援機関の活用が円滑な障害者雇用と職場定着に繋がっている。なお、職場実習は特別支援学校在学生などを委託訓練よりは短期(1~3週間)で受け入れている。
- (2)
- 障害のない従業員が障害のある従業員と直接関わり合う機会が増え、従業員全体の障害者雇用に対する理解が深くなってきていると感じている。
- (3)
- 障害のある従業員自身も次の目標が設定されることでモチベーションの維持やキャリアアップに繋がり、達成することで「自信」となり次なる成長や定着へと繋がっている。
- (4)
- 障害者の仕事を通じた良い手本があることで、障害の有無に関係なく周囲も刺激されているだけでなく、働く人の心が一つにまとまり、更なるサービスの向上や食の安全へ繋がり、安心して働ける職場となっている。それが、また定着にも繋がっている。
取組の内容 取組の効果 ◎支援機関との連携及び支援
・支援センターとの連携
・委託訓練の計画・実施
・支援センターの支援を受けながら対象障害者をサポートする
(訓練実施前、訓練中、訓練後、就職後)・円滑な障害者雇用と職場定着
・障害者雇用に対する社内の理解が深まる◎キャリアアップが図れる体制整備
・3か月毎に目標を立てる
・実践・達成できたか自己評価・企業評価を行うとともに面談を実施
・企業で対応できない場合は、支援センターへ相談
・次の目標やキャリアアップに繋がるような指導や計画を立てる
・競技大会への参加を勧奨・モチベーションの維持やキャリアアップ
・目標を達成することで「自信」となり、次なる成長や定着へと繋がる◎定着のための配慮
・勤務時間や休日
・休憩時間
・受入体制
・店舗の情報共有障害者の仕事を通じた良い手本があることで以下が実現
・周囲も刺激される
・働く人の心が一つにまとまる
・更なるサービスの向上や食の安全へ繋がる
・安心して働ける職場となっている
・職場定着にも繋がる4.まとめと今後の展望
様々な障害種類のある従業員と働く中で、社内の相手に対する配慮や連帯感がさらに感じられるようになり、障害の有無に関わらず、仕事を通じて従業員が成長していることを感じている。
マクドナルドは、ピープルビジネスであり、「人」がビジネスの基盤と考えており、フランチャイジーも含めた共通の価値観としている。同社も法定雇用率達成を単なる果たすべき企業の義務と捉えず、様々な挑戦を繰り返しながら、「一緒に働く仲間」として障害の有無に関係なく従業員ともに成長できる環境づくりにチャレンジし、更なる雇用の安定と定着を実施し、これからも地域に愛される企業として社会貢献したいと考えている。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
青森支部 高齢・障害者業務課 竹内 由樹
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