事業所外観

1．事業所の概要

（1）事業所の概要

エイブリック株式会社（以下「当社」という。）は、2015（平成27）年9月にセイコーホールディングスグループのセイコーインスツル株式会社（以下「セイコーインスツル」という。）から分社化した、エスアイアイ・セミコンダクタ株式会社を前身とするアナログ半導体専業メーカーである。

そして、日本政策投資銀行を筆頭株主に迎え、2018（平成30）年1月に新社名「エイブリック株式会社」として、新たな第一歩を踏み出した。

当社は1970年（当時はセイコーインスツル）に、世界初となるCMOS ICを搭載したクオーツウオッチの実用化を起点に、CMOS ICの自社開発、製造を開始して、以来、時計用はもちろん、様々な民生機器や携帯機器、車載機器向けに小型、低消費電力、高精度のアナログ半導体製品を提供し続けると同時に、自社技術の革新に努めてきた。

これまで長年にわたって培ってきた低消費電流、低電圧動作、超小型パッケージ技術を強みに、リチウムイオン電池用ICや車載用メモリのように、世界トップレベルのシェアを持つ製品群も数多く、その品質レベルは世界中の顧客から高い評価を得ているものと自負している。

クルマの電子化や、IoT（Internet of Things）社会の実現が加速度的に進む中、アナログ半導体が果たす役割は、今後ますます重要さを増していく。当社は「『Small Smart Simple』なアナログ半導体ソリューションでお客様に感動を提供」というビジョンの下、世界中の人々の豊かな暮らしに貢献することを目指している。

（2）障害者雇用の概要

現在、当社では3名の障害のある従業員を雇用している。うち2名（Aさん、Bさん）は身体障害のある方で、セイコーインスツル時代から長年勤務している。もう1名（Cさん）は精神障害のある方で、本稿ではCさんの雇用に関する取組について後述する。

Aさんは、右上肢の機能全廃の障害を有するが、長年物流業務に従事している。自分で無理だと判断した場合は、周囲の助けを借りながら業務を遂行しており、仕事をする上での大きな問題はない。

物流業務でコンテナを捌くAさん

Bさんは長年出荷検査の業務に従事している。右足関節機能全廃の障害があるため、座位でできる仕事を中心に業務に従事しているが、Bさんも仕事をする上での大きな問題はない。

検査作業に集中するBさん

当社では更なる障害者雇用の拡大を模索しており、地域との連携を図る活動にも力を入れている。例えば地元の特別支援学校からの職場実習を年に複数回受け入れることや、地域における障害者の理解を深めるために特別支援学校開催の障害者支援会議に参加するなどの活動を積極的に行っている。

そうした一環として、障害者の法定雇用率を達成するための募集活動を強化した結果、ハローワークを通じて就労移行支援事業所（以下「移行支援」という。）を利用していたCさんを紹介された。

2．Cさんの雇用にあたっての取組みの内容と効果

（1）取組みの内容

ア.

募集活動

募集に当たっては、ハローワークと具体的な進め方について相談したうえで求人を出すとともに、近隣の移行支援にも障害者の雇用を拡大したい旨を伝えるなど、広く募集活動を行った。

そうしたなかで、移行支援を利用していた精神障害のあるCさんが紹介された。

イ.

採用までのステップ

Cさんは製造業で働いた経験がある方であったが、病気により退職した後、療養をへて、当時は移行支援を利用し再就職を目指していた。そして当社の求人を知り、応募を希望した。

当社ではCさんとの面接を行うとともに、移行支援やハローワークの担当者との相談を行った。就労希望や就労経験のあることや移行支援での本人の状況などから、採用は可能ではないかと当社では考えたが、精神障害のある方の採用は初めてということで、個人の特性と仕事とのマッチングなどについて不安があった。Cさんも企業で働くことには不安を感じている。そうしたことから、本人・関係者と相談し、3か月間の障害者トライアル雇用制度（以下「トライアル」という。）を活用することとした。なお、負担軽減が必要と考え、トライアル中の就業時間は9時～16時とした。

トライアル中には指示者（兼相談者）を明確にして、作業の段取り等が混乱しないように気をつけた。

トライアル実施により、仕事や職場環境についてCさんだけではなく事業所側も不安が軽減されたことで、トライアル終了後には本採用にスムーズに移行することができた。本採用は2018(平成30年）4月であり、約半年が経過したが、大きな問題は起きていない。勤務時間も現在は9時～17時と、ほぼフルタイムに近い勤務となっている。

ウ.

担当業務

Cさんの担当業務については、本人の意向を踏まえ、移行支援の担当者の助言も参考としながら、トライアルの間にいくつかの作業に取り組むなかで徐々に固めていった。現在、Cさんは梱包用の箱を作る作業を行っており、自分で目標を定め、一定数の目標値までできるように業務に取り組んでいる。

当社としては、担当業務の幅を広げていきたいと考えているが、Cさんに無理がない範囲・ペースで進めるようにしていくこととしている。

また、業務外では本人の申し出があり、昼休憩は車内でとっているが、コミュニケーションを強制しないように心がけている。 

　エ　定期的な面談
　　　　Cさんは定期的に通院し、服薬を続けており、安定して働き続けるためにはそうした医療面をはじめとする幅広いサポートが必要
　　　である。そのため、当社では障害者雇用の責任者が本人と定期的に面談を行い、通院結果や体調、仕事の状況など、幅広く聞き取り
　　　を行っている。そして、必要があれば、本人の家族や移行支援などの協力を得て対応することとしている。

　　　なお、面談は個人的な内容を含むことからプライバシーを保てる場所で責任者と1対1で行っている。

（2）取組みの効果

Cさんの配属部署は少人数のチームでの作業になるため、一緒に仕事をする従業員に受け入れられるか心配していたが、お互いに不足しているところを補う形で仕事をし、相互扶助の職場風土の醸成につながっていると感じている。

Cさんは気配りができる方であり、周囲と馴染んで仕事をしている。分からないことは自ら周囲の人に積極的に聞いて、どんどん新しい作業も覚えている。箱を作る作業以外にも、製品を箱に入れる等の責任感の高い作業も覚えて、レベルアップしている。

3．今後の課題と展望

長年業務に従事しているAさん、Bさんは、体調管理に気をつけながら定年まで頑張って働いてほしいと思っている。また、Cさんについては採用してから1年未満ということもあり、まずは職場定着を目標に、負担にならない範囲でできる業務を増やしながら、仕事にやりがいを感じられるように一緒に取り組んで行きたいと考えている。

執筆者：エイブリック株式会社秋田事業所
後工程製造部実施グループ課課長　大山　哲