支援機関と連携した職場実習で適性人材の配置を実現
辛抱強く指導すれば障害者も限りなく可能性を発揮!
- 事業所名
- 株式会社 セレクション(フーズマーケットセレクション行徳店)
(法人番号 6040001076055) - 所在地
- 千葉県市川市
- 事業内容
- スーパーマーケット事業
- 従業員数
- 273名(行徳店;30名)
- うち障害者数
- 16名(同 上;4名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 12 店舗: 生鮮品パック包装・食品加工・商品陳列など
センター; 水産加工品のパック包装など精神障害 4 店舗: 生鮮品パック包装・揚げ物・弁当調理
センター; 水産加工品のパック包装など発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害、精神障害
- 目次
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事業所外観
1.事業所の概要
千葉県と埼玉県が輻輳する東葛地域に、食材の「鮮度」と「味」に特別のこだわりを持ったスーパー・マーケットがある。その名は”フーズマーケットセレクション“で、運営しているのは、株式会社セレクション(以下「同社」という。)である。
同社は平成元年の創業で、柏市、八潮市、三郷市、船橋市、市川市に8店舗を展開している。総従業員数は短時間のパートを含めると約800名で、そのうち273名が常用雇用労働者である。また、船橋市地方市場内に独自の水産加工センターと、鎌ケ谷市には研修センターを有し、品質と生産性の向上に加え社員教育にも特に力を入れた取組みを行っている。
同社本部のあるフーズマーケットセレクション行徳店(以下「行徳店」という。)は、平成9(1997)年に開設、平成21(2009)年にリニューアルオープンした同社の基幹店で、青果部、食肉部、水産部、惣菜部、グロサリー部、チェッカー(レジ)部から構成され、短時間のパートを含む約100名の従業員が、店長以下正社員は6名、契約社員を含むと10名の主導のもと、明るく生き生きとして働く姿が印象的な店舗である。
株式会社セレクションは、第一にご来店いただくお客さまに対する責任、第二に社員に対する責任、そして第三に地域社会に対する責任を掲げ、この三つの責任を果たすことを信条とし常に愚直に取り組むことを会社の使命として日々の業務を運営している。
2.障害者雇用の経緯
(1)障害者雇用の取組み開始から5年目に実雇用率6.6%達成
同社が障害者雇用に取り組み始めたのは平成24年からで、3年後に常用雇用労働者数が200名以上となり納付金制度の申告対象となるのを見据えてのことであった。
まず初めに、経営企画管理室内に専任担当者を定め、早速本部の地元のハローワーク市川に相談し、ハローワーク主催の障害者雇用説明会や当地域にある特別支援学校の千葉県立市川大野高等学園(以下「市川大野学園」という。)の企業向け校内説明会に参加するなど積極的に障害者雇用に関する情報収集と体制作りに取り組んだ。その結果、ハローワークから紹介された市川市の支援機関である市川市障害者就労支援センター“アクセス”(以下「アクセス」という。)と、市川大野学園の両機関から支援を受けられる連携体制を構築することができた。
そして、翌平成25年にはアクセスを通じて初めて障害者1名の採用を実現させ、その後も両支援機関との連携が奏功し毎年複数名の採用実績を挙げることができた。
その結果、当初0%であった障害者実雇用率は平成26年には法定雇用率の2.0%を達成し、その後も、順調に4.15%(平成27年)、5.2%(平成28年)と雇用率を伸ばし続け、平成29年7月には全社で6.65%と高水準の雇用率を実現させた。その間23名を採用し一人一人の雇用継続に努めていたが、最近は働く場を変えたいと申し出る障害のある従業員もいるなど一人一人の事情に全て対処するのも限界があり、これまでに7名が退職し、現在は第1期生を含む16名の在籍となっている。(2)障害者雇用に求める会社の期待の大きさ
障害者雇用に求めるこの会社の期待の大きさは、単に「法定雇用率を満たせばよい」という程度のものではない。スーパーマーケットを取り巻く雇用環境が年々厳しくなる中で「会社を支える人財の新たな雇用の源」となるように取り組んで行くというものである。
そのためにまず、「店舗やセンターの業務の中で障害のある従業員にどのような仕事ができるのか『仕事の切り出し』を徹底して行う」という方針を掲げた。当初は「包丁を扱わない仕事」や「買い物客と言葉を交わさずに済む仕事」の方が良いと考え、「水産センター及びバックヤードにおける青果、水産、食肉等の加工・包装業務」を対象とし配置することから始めた。
その次に、「障害者本人が業務の達成感を感じられるよう、当人にできることは(特定の業務に限定することなく)何でもやって貰う」という方針に変更した。その結果、例えばお客様と接することができる障害のある従業員は店内の陳列業務に配置するなど、一人一人の個性や障害特性に配慮した配置を行うことで雇用の安定化と定着化を図るよう取り組んだ。そしてこの取組みは社内に着実に浸透し、現在全ての店舗と水産センターに1名ないし2名以上の障害のある従業員を配置できるまでになった。
(3)支援機関との連携、助成金の活用
このような考え方と方針については、両支援機関にも十分に説明し理解していただき就職希望者を推薦いただいている。また、同社ではそのような就職希望者を必ず採用前に5~10日間程度の職場実習の「実習生」として受入れ、当人に職場を体験していただくことにしている。
そして、当人から職場や仕事に対する希望や意見を聞いたうえで、実習期間中の当人の行動特性や適性なども見極めてから採用することで雇用のミスマッチをなくすよう努めているとのことである。これまでジョブコーチの派遣を一度も受けずに済んでいるのも、同社と両支援機関との連携が非常にうまくいっていることを物語っている。
また、このような取組みを進めるにあたっては、市川市役所からの「職場実習奨励金交付金」と、ハローワークからの「特定求職者雇用開発助成金」が支給され、有効活用している。
3.取組みの内容
(1)行徳店食肉部における取組み
現在行徳店の従業員数は30名で、うち障害のある従業員は4名で、食肉部に2名と青果部に2名が配属されている。
食肉部に配属された2名は、平成26年と平成27年に入社したAさん(50代・知的障害)とBさん(40代・精神障害)で、いずれもアクセスから推薦された。
食肉は包丁を扱う仕事が主役であるが、その脇役として肉塊を準備し、切り分けた肉を袋詰めし、計量し値付けをする、といった補助的業務が「仕事の切り出し」により抽出された。また、この仕事は食肉の種類も多く作業量も多いことから、一日8時間のフルタイム勤務を前提としていたが、Bさんについては作業負荷による当人の体調管理に配慮して、週4日午後4時間のみの勤務としてスタートさせることにした。
店長としては、「売場に商品が途切れることにならないか?」と、一抹の不安を抱きながらも全てを現場責任者の管理と指導に委ねた。当初は障害者本人が判断に迷うことも多く、また、作業の手順をメモに書いて渡しても覚えられずに同じことを何度も聞いて来ることが常であった。しかしながら現場責任者は文句を一切言わずに、辛抱強く本人の成長を待ち続けた。そんなある日、Aさんから「若い頃肉屋でアルバイトした経験があり、包丁を握ったことがある」という話を聞き、この日を境に「包丁を扱う主役の仕事」を担当させ新たな職域に挑戦させることになった。先ずは、多少不揃いでも支障の無い「唐揚げ用の鶏肉」を切り分けることから包丁さばきを教えたところ、本人の努力もあって一般のパートナー以上の力を発揮できるまでに上達した。今では多くの肉種を的確にさばける腕前になり、Aさんは正社員に次ぐ戦力として食肉部の仕事を任されるようになった。また、当初は休みがちであったBさんも、Aさんの仕事振りに刺激され勤務も安定し担当業務の幅も広げていき、現在行徳店の食肉部にとってこの二人は「無くてはならない存在」になっている。
(2)行徳店青果部における取組み
青果部に配属された2名は、平成26年と平成28年に入社したCさん(40代・知的障害)とDさん(20代・知的障害)で、Cさんはアクセスからの推薦でDさんは市川大野学園の卒業生である。
青果部の仕事は、野菜や果物を切り分けるだけでなく、傷んだ部分を除去したり、小さな塊の食材であれば一定量になるように食材を組み合わせて体裁よくパック詰めしなければならないなど、判断が必要な作業を含む一種の「組合せ作業」である。このうち、高い精度の要求されないパック詰め作業が真っ先に仕事の切り出しにより対象となった。
Cさんは素直で丁寧な仕事をするが、すぐに仕事の仕方を忘れるなど、他の人に頼らないと自分一人では作業を進めることが困難であった。しかも、コミュニケ—ションが不得手で、自分から相手に話し掛けることも難しい状態であった。そうしたCさんの特性に配慮し、現場責任者は当人に対して「分からないことがあったら、何時でも何度でも聞いて!」と繰り返し声をかけるとともに、常に「どのように説明したら良く分かってもらえるか」と工夫を凝らしながら辛抱強く当人が覚えられるまで指導し続けた。
その結果、徐々に仕事を覚えられるようになっていった。そして、3年目になると、コミュニケーションを取るのが難しかったCさんの態度に変化が生じた。「水曜日は休むけれど木曜日は出てくるからね!」、「これやっておいた方が良いですか?」とか「こうするのね!」など、主体的に発言したり確認を求めるようになった。さらに「周りの人が忙しく働いている時は、自分も忙しく働かなければいけない。」といった組織の一員であるという意識も芽生えるなど、Cさんは職場の業務スケジュールや日々の業務の繁閑にも関心を持って仕事ができるようになった。そのことは、当人にとっても職場全体にとっても大きな前進であり、指導する現場責任者にとっても大きな喜びとなったとのことである。
Dさんも、当初は他の人とコミュニケーションを取るのが困難で職場に馴染めず、時にはなかなか仕事を覚えられないことに自信を無くし、意気消沈する姿が幾度となく見られた。そうしたDさんの性格や特性にも配慮しながら、現場責任者は工夫を凝らし辛抱強く指導をし続けた。その結果、最近になって担当業務に自信を持てるほどに成長し、また職場の仲間とも打ち解けるようになり、プライベートな話題も自ら話せるようになった。
(3)雇用障害者の受け入れ対応
障害者を雇用するにあたって、この会社ではパートナーを含む全従業員に対して「障害者の方を特別視せずに、温かい気持ちで受け入れる」よう繰り返し説明している。特に配属部門には障害のある従業員の障害特性に配慮し当人の仕事ぶりを暖かく見守るよう協力要請をしている。幸い、食肉部、青果部共に高齢のパートナーが多かったこともあり、障害者の方に対して懐深く包み込むように接して、かつ我慢強く丁寧に指導するような職場環境が醸成された。
食肉部の就労風景
青果部の就労風景
4.取組みの効果と今後の展望
(1)支援機関と連携した「職場実習」の効果
同社の障害者雇用の取組みが成功している要因は、支援機関と良く連携した「職場実習」の仕組みが効果的に機能していることであり、そのことが職場に適した人材の採用と配置を可能にしている。
このような仕組みが構築されるまで大変苦労が多かったとのことであるが、その努力が実り、障害者雇用について当初掲げた目標の大幅達成を実現することができている。
また、職場責任者を初めとする従業員が、障害のある従業員に対して辛抱強く指導し続けることを可能にする職場環境(会社方針、従業員の理解と熱意など)が、障害者自身に自らの新たな可能性を気付かせ、着実に職域を拡げることに繋がったことは、関係者にとっても大きな喜びとなり職場も大いに活性化されたと思われる。
(2)各店舗における取組みの効果
行徳店などにおけるこのような障害者雇用の取組みは、特にパートナーの比率が高い会社の職場風土に大きな変革をもたらした。1つ目は、皆が障害者の方の特性に配慮して接することで職場全体の雰囲気が和やかになったこと。2つ目は、「自分たちは障害者の方のお手本にならなければいけない」との意識がパートナーの間に拡がり、業務やサービスの品質が向上したこと。3つ目は、「相手に分かりやすく説明する」「コミュニケーションを密にとる」ようになり、従業員間の連携が強化されたこと、などが挙げられる。
そして、このように障害者雇用により職場が活性化されることが、ご来店いただくお客様にとって来て良かったと思っていただける雰囲気づくりや接客サービスの向上に繋がること、さらに従業員にとっても良いと思える職場環境作りに寄与することを確信し、今後とも障害者雇用の取組みに邁進したいと考えている。
(3)現状の課題と今後の展望
すでに各店舗には1名ないし2名以上の障害のある従業員が配置されており、一方で「新たな仕事の切り出し」にも限界が見えていることが現状の課題である。
同社では、今後、更に多くの障害者を雇用していくためには、障害のある従業員の生産性を向上させることが必要であり、そのためには育成指導による能力向上対策と職場環境の更なる改善が必須であると考えている。
例えば、行徳店の食肉部においては「包丁を扱えるように育成する」ことでよりスキルの高い高付加価値の仕事を担当させること、青果部においては「作業スピードを上げるよう指導する」ことで生産性の向上を図っていくこと、などを目標に掲げ取組みを開始している。
また、前者については怪我をさせないよう安全装置を取り付けるなどの職場環境改善対策の検討を、後者については効率的な作業工程を理解し実行できるよう訓練するとともに、一緒に仕事をする従業員とより連携し、全体計画に沿った作業ができるよう指導を開始している。
「辛抱強く教育すれば、障害者も限りなく可能性を発揮する」との思いを強くして。執筆者:65歳超雇用推進プランナー 新井将平
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