知的障害者の自立を目的とする会社
- 事業所名
- 株式会社エスエーエヌ(法人番号 9110001023889)
- 所在地
- 新潟県長岡市
- 事業内容
- 缶、びん、ペットボトル分別作業及び、それに伴うその他の作業
- 従業員数
- 42名
- うち障害者数
- 32名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 32 リサイクルごみ選別業務 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要
(1)沿革
株式会社エスエーエヌ(以下「当社」という。)は、平成11(1999)年8月、「知的障害者の職場確保のため」という目的で、長岡市手をつなぐ育成会(以下「親の会」という。)を中心に設立した会社である。
事業内容は、地方自治体(長岡市)が管理・運営する「リサイクルプラザ」の建物管理を含めた管理運営業務一切の業務委託を受け、その委託料で会社を運営している。
また、ここで働く従業員は、知的障害者と高齢者で構成されている。なお、当社については平成14年(2002)年度の障害者雇用レファレンスサービスのモデル事例にも掲載されているので参照願いたい。
(2)リサイクルプラザの概要
資源循環型社会の形成を目指し、ごみ処理施設の整備を計画的に取り組んできた長岡地区衛生処理組合が、長岡市の現有ごみ焼却施設に隣接し設置したもので、収集された「缶」「びん」「ペットボトル」を選別・保管する施設と、リサイクル活動の支援・普及を図る啓発機能を併せ持つ施設となっており、資源循環型社会の形成に大きな役割を果たしている。概要はつぎのとおり。
なお、長岡地区衛生処理組合は解散し、その事務及び資産は長岡市に引き継がれている。
〇管理者: 長岡市長 ○建築面積: 1,530㎡ ○処理能力:24t日(6時間)
〇業務目的 資源物として一括袋収集された缶・びん・ペットボトルを選別し、鉄・アルミ・ペットボトルは圧縮成型し、びん(カレット)は無色・茶・その他の色に選別し資源とする。また、2階には再生工房・リサイクル品の展示・交換コーナーがある。建物は鉄骨構造。(3)作業の流れ
収集された「缶」「びん」「ペットボトル」を選別し、鉄・アルミ・ペットボトルは圧縮成型し、ビンは無色・茶・その他の色に選別し資源とする。具体的な作業内容や流れは次のとおり。
- 基本的に手選別作業である。
- すべての作業は業務遂行援助者の支援を得て、障害のある従業員が作業している。
- 分別資源ごとに2~3人のチームで作業する。チームは、障害の程度が重度の従業員と障害者と軽度の従業員で構成している。
- 担当する資源をコンベアからピックアップし、コンベア脇の専門ホール(投入口)へ投入する。
- 貯蓄ヤードの整理については、高齢者が作業している。搬出するまで積み上げ、整理している。
- 機械類の運転については、高齢者が作業している。すべての作業は中央監視盤、中央操作盤で集中監視、コントロールしている。
2.会社設立の経緯と目的、雇用状況
知的障害のある生徒の中学校、あるいは特別支援学校高等部卒業後の進路について、働きたい気持ち・意欲をもっていても、地域には雇用する会社がなく、結局は近くの作業所しか進路がない状況が長年あった。しかし、障害者が自立していくためには、障害者を雇用し、給料を支払い、生活できる所得と、親なき後も一人で暮らしてゆける経済力を提供する会社が必要であるため、親の会が長岡市と一体となって設立したのが当社である。したがって、当社の最大の目的は障害者の自立であり、従業員の構成は知的障害者が中心になって働く会社で、高齢者はそのサポートとして携わっている会社である。
障害者の雇用状況も、現在(平成30年)は従業員42名のうち32名が知的障害のある従業員である。前回リファレンスサービス掲載時(平成14年)は、従業員32名のうち23名が知的障害のある従業員であり、着実に障害者雇用を進めていると自負している。
3.具体的な取組内容
(1)内容
- ア.
- 視覚的にわかりやすい研修の実施
ペットボトル、ビン、缶などの資源ごみの実物を種類ごとに集め、リサイクル品展示室の一角に常時置いておき、繰り返し見ることで、種類の区分やペットボトルのリサイクルマークの区分を覚える研修材料としている。
〇研修材料の例
ペットボトル(キャップ、ラベルはプラスチック又は金具類等で別扱い) 酒類 酒、焼酎等 2.7㍑~4㍑ 調味料 醤油、みりん等 1,000ml 清涼飲料水 水、コーヒー、各種お茶等 500ml 生ビン 酒(1.8㍑)ビールびん(大)等 - イ.
- 業務遂行援助者の有効活用
業務遂行援助者を定め、重度障害者及び新規入職者については、有効活用している。具体的には、上記〔ア〕の研修の実施の際や、朝礼における注意の喚起などで活用している。さらに作業中のさまざまなトラブルへの対応を粘り強く担うなど、業務遂行援助者が担う役割は大きく、また有効と考えている。
なお、業務遂行援助者の配置にあたり、高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者介助等助成金(業務遂行援助者配置助成金)を活用している。
- ウ.
- 勤務時間の配慮
心身面での負担を軽減するため、勤務時間について配慮している。勤務時間は8時30分から16時30分までとし、作業時間は午前8時40分から午前11時40分までと、午後1時から午後4時までとしている。また、40分作業したら20分休憩することとし、全体を3班構成で順次休憩することとしている。
- エ.
- 効果
重度障害者が作業環境に適応するには、反復継続指導を実施してもかなりの時間がかかるが、業務遂行援助者の粘り強い指導により間違いなく作業が可能となったことと、勤務時間の変更により障害者全体の作業に対する集中力が増しコンベアの流れを安定させることができるようになり、作業能率が向上しているところである。
(2)作業指導・教示、役割上の配慮
毎日の作業における作業指示や経験もとても重要である。例えば、ペットボトル、びん、缶などが搬入されてきた際に実物を具体的に示し、手で触れさせるなどにより、視覚と感覚で資源物かそれ以外かを見分けられるようにすることである。知的障害のある従業員が作業を覚え、職場に適応していくには従業員も指導する側も毎日の反復が大切であり、根気がいる作業ではあるが、実行すれば間違いなく日々進歩してくる。
そして、知的障害者は覚えた作業は間違いなく、正確に丁寧に行う。新しい作業を教えるには、時間を要するが要しただけの価値はあり、作業をこなしてくれるようになる。
その人に応じた役割をあたえることも重要である。
当社では、ラインでの作業に従事する者を3班編成にし、各班の中でリーダーを選定して、その班を任せる方法をとっている。
リーダーは自分の班をまとめ、作業の指示も出せるようになった。また、リーダーは自ら積極的に新人に対して資源の区分けを指導し、ラインの配置を全て決められるようになった。
さらに、他の障害者へも作業の指示及び注意も行い、時にはきつい言葉も発する事もあるが、喧嘩している仲間の仲裁をする事も見受けられた。
障害があっても、自覚、責任を持たせることは、本人にとっても職場にとってもたいへん大事な事である。ただし、リーダーである適任者を探し出すまで、何人か変更しないと、本当の適任者はわからない。そして、同じ人が長くリーダーを務める事は、他の従業員にも本人にもマイナス要因である。慎重、かつ適正に判断して配置しているところである。
ペットボトル・びん・缶の搬入
ラインにて資源の分別作業
4.学校、行政、支援機関との連携
障害者雇用を進めるにあたっては特別支援学校などの教育機関、行政機関、福祉機関などとの連携も不可欠と考える。
当社では毎年、市立高等総合支援学校1年~3年生数名が現場実習(職場実習)として体験している。本人が当社に勤務したい気持ちがある場合と、体験が目的の場合があるが、当社を希望する者については作業に対する取組のなかで、その生徒の適応、性格などをみながら将来採用するかどうかの参考にする場合がある。
特に3年生の実習は本人、保護者、担当先生を交えて将来の方向、本人の希望などを加味しながら三者面談を実施している。
当社は、行政の全面的協力があってできた法人であり、福祉行政としての位置付けで運営させていただいている事もあり、採用する枠に限度はあるが、出来る限り毎年地元の高等総合支援学校から採用して欲しいとの要望があり、ハローワークとも協議しながら毎年1名程度の採用をしている。
また、会社の寮は、社会福祉法人に管理運営を委託し、グループホームとして当会社の従業員が利用している(現在4名が利用)。
利用者が、何か日常生活の中でトラブルが発生した場合に備えて、保護者への緊急連絡先や行政、社会福祉法人と常に情報を共有している。
会社は年2回、同じ施設内にある委託発注元(市環境部)、福祉課、と3者会議を実施し、問題点、改善点、要望など話合いを行って、安全対策や施設設備等の改善など、今後取り組むべき課題について情報を共有している。
5.これからの課題
当社が設立されて18年、当初から比べて障害者も倍近くまで増えたが、10年後、20年後の会社の将来像がみえてこない。
従業員が障害者と60才以上の高齢者の会社であるため、将来を明確に見通すことが難しい面もあるが、当社の設立目的である「障害者の自立」をどう考え、どのように経営してゆくかが難しい面もある。
当社は社会福祉法人のような機能は持っていない。企業として、働いている従業員に働きに応じた給料を支払い、それが彼らの生活費などになればとの思いで経営を続けている。しかし、本人たちが年金・手当と会社からの給料によりある程度の収入を得ることができても、得た収入を活用し自立していくためには、自立に必要な様々な支援を行う存在(機関や支援者など)が必要である。従業員が困っているときに、一時的に会社が助けることができるかもしれない。しかし、困っている全員にできるかとなると難しい。また、障害について専門的に理解し、支援できるかとなると限界もある。
また、従業員の意識面への働きかけや人材育成なども重要である。当社の作業は比較的易しいものが多く、だれでもできる面がある、だからこそ雇用した従業員のモチベーションなどの維持・向上や、リーダーを任せる人材を見つけることは容易ではない。長年勤務していると「経験がある」から「慣れ」に変わり、心の油断やミスがでてしまうことがある。また、長年リーダーを務めていると勘違いして、職場でのトラブルにつながることもでてくる。
そうしたことをひっくるめて、「自立」を考え、会社の将来を考えることはかんたんではない。しかし、大切なことは、働いている人すべてが安心して、やさしい気持ちで生活できる環境をもっと作っていくことで、当社としても引き続きできることに取り組んでいきたいと考えている。そのためには、就業面と生活面の一体的な支援が必要であり、各支援機関・団体などとの連携と利用を積極的に検討したいと考えている。
当社の課題は、その設立目的である「障害者の自立」をサポートする会社として、地域の期待に応えるための将来像を明らかにしていくことだと考えている。
執筆者:株式会社エスエーエヌ 代表取締役社長 五十嵐 勝彦
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