特例子会社認定に向けて知的障害者を採用し職場定着した事例
- 事業所名
- 株式会社アイコー(法人番号 9180301016900)
- 所在地
- 愛知県安城市
- 事業内容
- 保険医療機関の寝具類の受託、医療関係被服等の洗濯業務など
- 従業員数
- 45名
- うち障害者数
- 11名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 医療関係被服などの洗濯業務 肢体不自由 内部障害 知的障害 10 医療関係被服などの洗濯業務 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害者
- 目次
事業所外観
1.事業概要
株式会社アイコーは(以下「当社」という。)、JA愛知厚生連(以下「厚生連」という。)が傘下の9病院(現在は8病院)の基準寝具の供給及び洗濯補修、職員被服などの洗濯を行う部門として昭和42年(1967)年3月に設置した「厚生連寝具センター」を前身とする。その後、入院患者・病床数・職員の増加に伴い、従来の経営を基盤に工場労務管理の改善と運営の合理化を促進し、寝具並びに洗濯シェアの拡大に努めるとともに、病院経営に寄与する幾多の業務を行うことを目的に、昭和51(1976)年12月に厚生連100%出資の共同会社「株式会社アイコー」として設立され、新たな組織として厚生連寝具センターの事業を継承し、現在に至っている。
現在の事業規模は、厚生連以外の若干の施設も含め、約6,000床の寝具類の供給と約8,000名の職員被服の洗濯などを取り扱っている。また、洗濯規模は1日約6.2トンで、寝具類は年間150万枚、職員被服類は年間135万枚の洗濯をこなし、厚生連の子会社として、診療を下支えする業務に取り組んでいる。
厚生連は、平成10年代の後半に職員数が大きく増加し、障害者雇用率も低下したが、医療事業の特殊性から障害者の雇用は難しい面もあり、こうした背景から、特例子会社制度を活用して当社が厚生連の特例子会社として認定を受けることにより、障害者の雇用の場の確保とともに、厚生連の障害者雇用率のアップを図ることとした。
当社は、平成19(2007)年に初めて障害者を雇用、その後2年連続して1名ずつ増やし、平成25(2014)年に2名、平成26(2014)年には3名を雇用し、平成26(2014)年5月12日付で特例子会社に認定された。現在、初めて障害者の雇用をしてから11年経つが、これまで離職者は1名もいない。以下、JA愛知厚生連の特例子会社として認定されるまでの取組と、障害のある社員担当業務、指示などでの具体的取組について報告する。
2.特例子会社認定に向けた取組経過
(1)取組の経過
当社が特例子会社として認定を受けるためには、雇用する障害者数を増やすことが必要であり、その実現に向けて、関係機関との連携を図りながら、状況を判断しつつ段階的に進めてきた。
そのために、まずは障害者の募集・雇用管理にかかる情報収集を進めた。また、障害者雇用を円滑に推進するために、社員全員のコンセンサスを得ることが必要不可欠であると考え、障害者雇用の必要性の共有、障害者への理解と認識を深めるなど、受け入れ環境を整備することから着手し、その後に、職場実習の受け入れ、採用に繋げていくこととし、順次対応を進めた。
(2)受入れ環境の整備
障害者雇用を始めるにあたり、ハローワーク職員、特別支援学校の教諭、愛知障害者職業センター(以下「職業センター」という。)職員などに実際に職場を視察してもらい、アドバイスを受けるとともに、当社の担当者も障害者雇用をしている同業他社の職場を訪問し、具体的な話を聞くなどを行った。
また、職業センターの職員を講師に、知的障害者の障害特性・雇用管理に関する社員研修を実施し、社員の意識醸成を図った。
(3)採用と教育指導
以上のような受入環境の整備を図る中で、平成19(2007)年に初めて重度の知的障害者を採用した。
その後も、知的障害者を中心に採用を進めた。採用に当たっては、近隣の特別支援学校の生徒を一週間程度の職場実習で受け入れ、本人に職場と業務を知ってもらうとともに、会社としても作業状況などをみることで、相互理解を進めた上で採用を行ってきた。
採用当初は、障害のある社員とそうではない同僚との間で互いに戸惑いがあり意思疎通も上手く行かず、社内の雰囲気はあまり良いものではなかった。また、障害者の中には重度の自閉症をもっている者もあり、両親の協力が必要なケースもあったが、以下のポイントで障害のある社員への教育指導を徹底するなかで、その後は比較的スムーズに意思疎通、指示理解が進むようになった。
【教育指導のポイント】
- 業務内容も説明もすぐには理解できない者もいるため、根気よく、時間を掛けて説明すること
- 同じ間違いをすることが多いので、反復作業を徹底し、指導すること
- 言葉では伝達できない業務内容であると判断した場合、写真や絵文字などを使った分かり易い表示板を活用し、説明・対応すること
- 何事も辛抱が肝心、長い視点に立って判断すること
3.雇用に向けた取組(担当業務、指示、配置などでの配慮)
(1)障害のある社員の担当業務について
工場内には様々な作業があるが、障害のある社員が担当しているのは以下のA工程からH工程の作業である。なお、作業の負荷などを勘案し、AからEには男性社員が、F~Hには女性社員が従事している。
- ア.
- A工程からE工程
6名(重度:4名、軽度:2名)が従事しており、工程名・作業内容・従事者数、工程別の状況は以下のとおり。
- (ア)
- 工程名と作業内容、従事者
A工程:洗濯・仕分け作業 2名 B工程:ローラー作業 1名 C工程:乾燥機・畳み作業・ハンガー整理 1名 D工程:タオル場 1名 E工程:消毒・白衣並べ替え・布団整理 1名 - (イ)
- A工程の担当者は、クリーニング師の指示の下、一日あたり平均6.2tの洗濯物の洗い・仕分け作業を行っている。10年以上のキャリアを有する者もいて、今では洗濯する白衣などの重さを量って必要に応じて分配し洗濯機に投入、内容物に合わせ洗剤も投入し洗濯機器を稼働、洗濯終了後には白衣などを洗濯機器から排出し、次工程に搬送するといった一連の作業をほとんど指示を受けることなく行っている。
- (ウ)
- B工程の担当者は、シーツ類をアイロナー作業する前処理を行っている。乾燥機で予備乾燥を終え、籠の中に入った80枚ほどの濡れたシーツ類を1枚1枚取り出し、テーブルの上に担当者が作業しやすいように投げ出す(広げる)作業を半日行っている。なかなかの重労働で、肩が痛くなる事は頻繁にあるが、弱音を吐く事なく暑い中を日々頑張っている。1日あたり平均作業量はシーツ類で3,000枚程である。(「アイロナー」とは半乾燥したものをローラーなどで機械仕上げするためのもので、写真では大判の白布を入れている機器)
A工程担当者の作業風景
B工程担当者の作業風景
- (エ)
- C工程の担当者は、布団類の乾燥・白衣の畳み・ハンガーの整理を主に行っている。曜日・時間帯によっては出てくる物が違うため、2年ほど掛けて指導を行い、作業を習得した。今では指示が無くとも乾燥機の作業順序を理解し、指定の時間には乾燥機を空けたり、使用可能時間までの作業を計算して乾燥作業を行っている。
なお、B工程及びC工程の担当者は、どちらかが休みを取得しても作業が滞留する事のないよう、B工程とC工程の作業を2名とも習得し、担当工程をローテーションしている(午前と午後で交替)。休暇取得者がいる場合には、人員が手薄な工程のサポートに入るなど臨機応変な対応ができるレベルにある。
- (オ)
- D工程の担当者は、タオルをフォルダーに投入し、20枚単位で結束後、台車に指定数積込をし、搬出場所まで移送する。また、おしぼりを機械で巻き、専用ケースに指定数量を収納する作業も行っている。「この病院・この曜日の配送分は、清拭タオルが何枚、下用タオルが何枚、おしぼりが何枚」と積込数量が日々変化する中、指定数量が記載されている用紙を見ながら一週間の必要なタオル数量を自分の目で見て判断し、作業を完成させている。1日あたりの平均作業量は8,000枚ほどである。
C工程担当者の作業風景
D・H工程担当者の作業風景
- (カ)
- E工程の担当者は、毎日消毒機から枕本体や汚染物などを排出し、その後未消毒物を機器の中に投入・機器稼働をさせる、また仕上げまで完了した白衣の名前並べ替え(アイウエオ順)、布団を台車に約70枚積み込む作業を1日に数台分行っている。
- イ.
- F工程からH工程
4名(重度:1名、軽度:3名)が従事している。
- (ア)
- 工程名と作業内容、従事者
F工程:トンネル仕分け・ハンガー整理 1名 G工程:ロール後ろ 1名 H工程:タオル場 2名 - (イ)
- F工程の担当者は、乾燥の終了した白衣仕分け・ハンガー整理を行っている。障害のない社員の作業を補助する役割として配属。多い時には1日で7,000枚以上の白衣の仕分け作業を行う。熱源の横で毎日作業、時には室温45度近く上昇する工場内で日々作業に励んでいる。
E工程担当者の作業風景
F工程担当者の作業風景
- (ウ)
- G工程の担当者は、ロールアイロナーから出てきてフォルダーで畳まれた寝具類を20枚ごとに結束し、台車に400枚まで積み込む作業を健常者と一緒に行っている。また白衣を畳む、枕カバーをロール機に投入するといった作業を行っている。簡易的ではあるが、汚れ・破れを目視判断し不良品をはじく作業も行っている。
G工程担当者の作業風景
- (エ)
- H工程の担当者は、D工程の担当者と同様の作業を1日行う。時にはF~G工程の応援に入って作業する事もある。
F~H工程の計4名の担当者も前述のB工程、C工程の担当者と同様にローテーションを組んでいて、4名が3つの工程の全ての業務を習得しており、いつ誰が休んでも応援可能な体制を構築している。
(2)業務指示上の配慮~「目で見る」業務指示~
- ア.
- 言葉で伝えても理解することが難しい、またノートに書き留めることが苦手な担当者(重度知的障害者)も多数在籍する。そのような職員のために、壁に写真入りで作業方法を掲示、文字のみでも分かり易い業務指示(ひらがな表記やふり仮名を記載)を掲示し、フォローを行っている。
- イ.
- なかなか業務指示を覚えられない担当者(重度知的障害者)には、上司が一緒にノートに業務指示を書き留め、これを自宅に持ち帰り毎日確認するよう指導も行っている。また、時々、業務の理解度チェックも行うようにしている。
(3)配置に当たっての配慮
- ア.
- 入社後2年間配属された部署から配置換えを行ったところ、行き先の部署が自分の苦手とする計算作業を要する部署だったため、1か月弱で精神的に作業不可能となった者がいた。これを受け、この者の出身校である特別支援学校の教諭・両親とも協議の上、元の部署に戻すこととした。復帰後の精神面は安定している。
- イ.
- 各部署で残業が発生した時は、障害のある社員に限り18時を超えての時間外業務は行わせず、帰宅させている。
- ウ.
- 熱源(プレス機など)が工場内には多数存在する。危険な機器も多数あるため、極力危険を伴う業務はさせないよう配慮している。
- エ.
- 協調性を必要とする部署へは配属については慎重に検討している。
- オ.
- 極力不安にさせない・間違いを減らすよう、指導者が常に目の行き届く場所で作業させる。
- カ.
- 食物アレルギーを多数有する者が1名在籍。職員旅行・社員会議時の食事は、会場にアレルギー一覧を送付し対応してもらい、本人も参加できるようにしている。
4.今後の課題と取組
障害のある社員と障害のない社員が工場内でともに働くことができるようにするためには、障害のある社員に対する周囲の理解が必要であり、教育指導の方法も含め、その点が一番の課題であると認識している。全社員がこの課題をクリアするため、一丸となって日々取り組んでいるが、言葉では言い表せない大変なことである。
一方、地域からの直接的な反応は感じられないが、特別支援学校を通して地元中学校の特別学級の教諭や障害者関係施設の職員などの訪問を受け、障害者を雇用していることへの感謝をいただいており、課題も多いが励みに繋がる。
当社の特例子会社化に向けた取組については、厚生連全体としての障害者雇用率改善を発端とした対応ではあるが、実質的には、当社の障害者雇用促進の取組を強化し、特例子会社としての位置づけを確たるものにすることと認識している。
今後もこの取組にあたり本質的な役割は、企業の社会的目的の一つである「福祉の向上」に繋げることであり、厚生連の目的である「地域社会貢献」に寄与することである。
当社においても、社のミッションとして「障害者の雇用を通じた福祉の向上を図り、障害者雇用の安定に向け自助努力する」を掲げており、正にこのことであると確信している。
執筆者:株式会社アイコー
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