事業所外観

1．事業所の概要

大阪市西区に本社を構える株式会社ミライト・テクノロジーズ（以下「ミライト・テクノロジーズ」という。）は、1960年の創業以来、通信インフラ設備の構築を中心に情報通信エンジニアリング企業としてより快適な社会の実現に向け事業を展開しており、現在ではクラウドコンピューティングやデータセンタビジネスなど新たなICT市場にも積極的に取り組んでいる企業である。

ミライト・テクノロジーズでは、ワークライフバランスやダイバーシティーの推進を成長戦略における重要な要素として捉え、取り組んでいる中、障害者雇用については平成29（2017）年に障害者雇用優良事業所表彰（大阪労働局及び大阪府雇用開発協会）を受けたほか、女性の活躍についても力を注いでおり、厚生労働大臣より「えるぼし」認定を受け、最高位（3段階目）の評価を得るとともに、子育てサポート「くるみん」の認定も受けている。

2．障害者雇用の状況

ミライト・テクノロジーズでは全従業員約1,100名のうち、18名の障害者（うち重度6名）を雇用しており、障害者実雇用率は　平成30年（2018）年6月の段階で2.41％と法定雇用率を超えている。

今回、本稿の作成にあたっては、ミライト・テクノロジーズ人事部の赤尾洋右部長、嵐章浩主査、さらに障害のある従業員の小倉慎司さん(採用2年目)とAさん(採用1年目)の4名にインタビューを行った。

インタビュー場面

3．適材適所の配置

ミライト・テクノロジーズでは全社的に障害者雇用を考えることで、障害者が従事する仕事を特定することなく、多岐にわたる作業種類のなかでマッチングを図ることが大切であると考えており、適切なマッチングのため応募してきた障害者の障害状況や適性を見極めた選考・採用、社内各部署へ適材適所の配置がなされている。

視覚障害のあるAさんは、ミライト・テクノロジーズのそうした姿勢を知り、「業界についての知識がなくても、色々な作業での就職の可能性があったので、自分の能力が発揮できるのではないか。」と面接に挑戦できたと述べていた。

作業が特定されていると、どうしてもその作業ができないとなると面接で落ちてしまうという心理的なプレッシャーが、障害者の側に生じてしまう。一方、ミライト・テクノロジーズでは、障害者が自身の状況に合わせて配置を検討してもらえるということで、面接の際に、自分の状況を正確に説明し、できることできないことを明確に提示しやすくなり、ありのままで面接に臨むことができる。そして、最終の面接の段階になると面接は1時間以上にも上るという。

体幹に障害のある小倉さんは、「面接で『フロアの絨毯の下に配線がしてありますが、それは歩きにくくないですか』という事を聞いて下さり、そこまで細かな配慮をしてくださった企業は初めて出会った。」と面接を振り返る。

4．丁寧な面接

このように障害者を適材適所に配置するために丁寧な面接を行うわけだが、本人の状況について綿密に聞き取りをする企業側の態度に障害者は安心をするという。

「面接の際、この企業では、『決めつけ』がないのです。それが良かったです。」とAさんは言う。

障害者を多く雇用している企業では、ともすれば、「この障害だから、こういう作業は難しい」とか、「この障害のある人はこういう特性がある。」といった先入観を持ってしまいがちだが、ミライト・テクノロジーズでは、障害者個人の状況を時間をかけて丁寧に聞き取る。自分たちは障害についてのエキスパートではない、本人の状況は本人が一番よく知っているという謙虚な姿勢の表れであろう。

また、ミライト・テクノロジーズでは障害者雇用を進めている多くの企業とは異なり、障害者雇用に際し、実習期間や契約期間を設けず、初めから正社員として採用し、OJTで社員を育てていく。

「本人ができると言って、実際にできなかったら」という筆者の質問に、赤尾部長は次のように答えた。

「それは、健常者でも同じことです。面接官は、本人が言ったことを信じるしかありません。そのために、ざっくばらんに色々なことが話せるように丁寧に面接を行っています。」そして、そうした会社の姿勢に障害のある従業員は面接で自身が言ったことに責任を持つことで応えてくれると話す。

5．今後の課題

障害者の実雇用率2.41％のミライト・テクノロジーズだが、この状況に満足をしているわけではない。現在、ミライト・テクノロジーズで雇用されている障害のある従業員は身体障害者のみである。身体障害者のみを雇用するという意思があるわけでなく、結果的にそのようになっているわけだが、今後は、身体障害者を今まで以上に育てていくとともに、知的障害者・精神障害者など多岐にわたる障害者雇用も検討していくという。

6．まとめ

小倉さんもAさんも、「ミライト・テクノロジーズでは、確かに他の人に手伝ってもらうこともあるものの、自分が『障害者』であることを意識することは、ほとんどない。」という。

今回、ミライト・テクノロジーズを訪問し、取材する中で、「スロープの設置や通院・服薬、車通勤に関する配慮など数多くの合理的配慮を行っているが、これらの配慮は、『全ての従業員がどのようにすれば働きやすいか。』という考えの延長線上にあり、障害者だけをとりたててサポートをしているわけではない。」と実感した。

このような全ての人間を尊重する企業こそ、未来を作り出す企業のあるべき姿なのではないだろうか。

執筆者：関西学院大学　非常勤講師　平　英司