障害の特性を活かした職域開発を進めている事例
- 事業所名
- 特定医療法人 岡谷会(法人番号 2150005000549)
- 所在地
- 奈良県奈良市
- 事業内容
- 医療業
- 従業員数
- 626名
- うち障害者数
- 9名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 5 健診者の結果表のスキャニングなど 内部障害 知的障害 精神障害 2 パソコン入力、カルテ等の各種整理など 発達障害 2 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、精神障害、発達障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
特定医療法人岡谷会(以下「同会」という。)は、奈良市高畑町に無差別・平等の医療を理想に掲げ、昭和21(1946)年「岡谷医院」を開設した。開院当初から在宅医療に力を入れ、「往診の岡谷」と呼ばれ地域の中で信頼を築いてきた。昭和28(1953)年、全日民医連、後の全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)に加盟し、昭和33(1958)年、地域の人々の願いを集めて奈良市中筋町に「岡谷病院」を開設した。昭和41(1966)年、衝撃的な火災にみまわれたが、火災の3日後から診療を再開し、多くの人々からの励ましや再建資金等の支援を受け、翌年には奈良市西木辻町に112床の病院として再建することができた。その後、保健・医療・福祉のネットワークづくりの中で、安心・安全・信頼の医療を一貫して追求し、平成14(2002)年、新しい医療ニーズに応えるため現在地の奈良市南京終町に新築・移転した。より親しみやすい病院を目指し「おかたに病院」と名前をひらがなに変更し、入院150床、一日外来患者数約300人の病院として、患者の人権を尊重した、安全で質の高い保健・医療・福祉の提供を心掛け、地域の人々から信頼され愛される医療機関であることを目指している。
(2)障害者雇用の経緯
平成20(2008)年に成立した「改正障害者雇用促進法」により中小企業における障害者雇用の促進が段階的に施行されることに伴い、本格的な障害者雇用の取組みとして3年前に奈良労働局が主催する障害者就職面接会に参加した。同就職面接会にて身体障害者(肢体不自由)1名を採用し、その後は、奈良障害者職業センター(以下「職業センター」という。)からの支援を受けて精神障害者(発達障害者)2名を採用している。
また、10年ほど前にうつ病を発症した職員が2年前に精神障害者保健福祉手帳を取得したことにより、本人の障害の特性に適した職務は何かを考え職域の開発にも努めている。
同会では障害者雇用を進めるにあたり、障害の特性を障壁と考えず「個性」と捉え、その「個性」を活かせる職務は何かを考えることを基本的な方針とし、まず管理者がその方針に基づいて障害者雇用の先頭に立って取り組んでいる。
2.取組みの内容と効果
障害者雇用を進めるにあたって、以下の取組みを行った。
(1)障害の種類や程度に適した職務の開発など
医療事務部署の管理者が、健診センターや医事課などにおいて、障害のある職員を受け入れることができるよう職務・職域の開発、業務調整を行った。その結果、院内では極めて重要な情報ツールであるカルテや健診後の問診表・結果表を保管・管理するためのスキャニング、シュレッダーの業務を切り出すことができた。
(2)支援機関等との連携、職場見学・職場実習の実施
採用にあたっては、ハローワーク・職業センターとの連携をとりながら障害者雇用に取り組んできた。障害者就職面接会への参加や職業センターにおいて職業相談・準備支援を受けている精神障害者(発達障害者)の推薦も受けている。そして、採用前には職場見学・職場実習を行い、採用する側も就職を希望する側も互いに予定している職務ができるかどうかを確認して採用を決定している。また採用後に、必要なケースについては職業センターからジョブコーチの支援を受けている。障害の特性や配慮すべき点や障害のある職員が職場に定着するため上司・同僚に求められるサポートなどについての支援を受けている。現在、ジョブコーチ支援を受けて採用した職員に対しては、月に1~2回程度の面談にて仕事に対する悩みや相談等のヒアリングを実施し、困ったことや問題が発生した場合はジョブコーチに連絡し連携しながら対処している。
(3)職務上の配慮
障害といっても、種類と特性、程度や症状の状況など、さまざまであり一律ではない。また個人によってその日の体調や気分、モチベーションも変化する。そこで、障害のある職員が配置される際には、本人の了解を得ながら配置部署の職員に対し、障害の種類・程度や状況、配慮事項などを予め伝え、共有すると共に、障害のある職員が一人で仕事をすることがない様に、常に障害のない職員の目が届く職場環境づくりを行っている。そして、日々の変化や異変などを見逃さないようにし、何かあればすぐに部署の管理者まで連絡が入る体制にしている。例えば、障害のある職員が、担当業務である廃棄カルテのシュレッダーを行う場合でも、他の職員は異常がないかに注意を払うようにしており、体調に異変などがあればすぐに部署の管理者まで連絡が入ることにしている。また、事務机の配置やパソコン用モニターの高さも障害のある職員の様子が管理者から常に見える位置に設置している。
勤務時間についても配慮している。障害のある職員の勤務時間もフルタイム勤務(9時から17時)が基本であるが、各自の障害の種類・程度や症状の状況、本人の希望などにも配慮し、短時間勤務が必要な者については個人別に柔軟に対応している。例えば、月~金の9時から13時(または10時から16時)の一日4時間・週20時間、あるいは月~土の9時から16時の一日6時間・週30時間といった勤務時間などを個別に設定している。また通院ができるように勤務日を組む配慮も行っている。
(4)職場定着に向けての取組み
3年前に入社した後、2回、2~3か月の長期入院の治療を要した障害のある職員がいる。仕事と治療とが両立できるように支援するため、入社当初は9時から17時までのフルタイム勤務であったが、復帰後には9時から15時の勤務とし、状況をみながら現在は9時から13時の勤務に変更している。また、肢体不自由であるため、立ち仕事を外し、パソコンのスキャニングを中心としたデスクワークに従事させている。
現在、採用・職場定着に当たって職業センターのジョブコーチ支援を受けている精神障害(発達障害)のある職員が2名勤務している。1名は、極めて高い集中力があり、過大な負担を避けるため、時に仕事の手を少し緩めるように指導している。また、自己の仕事成果に対し自信を持てず自己評価も低いため、高い集中力や早い仕事ぶりへのフィードバックを上司から行い、客観的な自己評価ができるように指導している。併せて、適切な仕事のペース配分や職域の拡大についても指導するなど、育成に取り組んでいる。
もう1名は、パソコンキーボート入力の速度が速く、与えられた仕事に手を抜かない。入社2年目になるが、当初、廃棄カルテをシュレッダーする業務に従事していたが、段階的に職域が広がってきている。現在、同院ではスーパーマーケットにおいて買い物客に対する院外活動を行っており、そのスタッフとして同行し、現地にて補助の業務も行っている。仕事の成果が自信に繋がってきており、職域が広がるように指導している。
また、在職中にうつ病を発症し、2年前に精神障害者保健福祉手帳を取得した職員に対し、現在は職務の負担が軽い営繕関係の業務に従事させ、仕事と通院治療との両立を支援している。また生活面の支援協力を得るため、奈良市内の障害者就労・生活支援機関への通所と主治医への定期通院を勧めている。
(5)取組みの効果
同会で働いている障害のある職員は、いずれも真面目であり、仕事に対して手を抜かない。また、障害のある職員の各々の障害の種類・程度・特性や症状の状況を一人ひとり丁寧によく理解し、本人に適した職務を見出し、かつ職場の周囲も障害に対して理解する職場環境が整えば、障害の有無に関わらず職務に十分従事できる。そうした取組みがあれば、障害はあっても集中力や事務処理能力を発揮し、期待に応えてくれている。
障害者雇用に取り組む前は、どのような仕事を与えれば良いのか、職場の周囲とうまくやっていけるのかなど、不安があったが、障害の状況を正しく理解し職場の周囲が支え合うことにより、現在は障害のない職員と何ら変わることなく職場の一員として貴重な人材になっている。障害のある職員の仕事に対し真面目で手を抜かない姿勢は、当初の不安を払しょくし、同会の障害者雇用の取組みに対する自信に繋がっている。
3.今後の展望と課題
本格的な障害者雇用の取組みを始めて3年程である。この間に採用された障害のある職員の職場定着は順調に進んでいるが、一人ひとりの障害の状況を個々に見ていくとまだまだいろいろな課題があり、今後もいろいろな配慮、取組みを検討していく必要が出てくるものと思われる。
障害のある職員の一人ひとりの課題に対して丁寧に向き合い、貴重な人材として、益々貢献してもらう戦力となるように指導していきたいと同会は考えている。
また、障害をネガティブに障壁と捉えれば見えてこないが、就労支援機関などの助言や支援を受けながら、障害をポジティブに個性と捉え、どのような能力を持っているか、その能力を活かせる職務は何かなど、障害の有無に関わらず職員を一人ひとり活かす教育・指導、職域開発をもって障害者雇用の取組みを今後も広げていくことを目指している。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
奈良支部 高齢・障害者業務課 水野 宏
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