多様な障害者を受け入れられる体制へ
- 事業所名
- パナソニック アソシエイツ鳥取株式会社(法人番号 8270001000360)
- 所在地
- 鳥取県鳥取市
- 事業内容
- LED照明の組立製造 他
- 従業員数
- 48名
- うち障害者数
- 19名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 8 ラインリーダー、組立作業 肢体不自由 4 IT管理、製造予備作業、部品検収 内部障害 1 製造予備作業、植木潅水 知的障害 4 組立作業、製造予備作業 精神障害 2 部品供給作業、ラベル印刷 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要
(1)設立の経緯
パナソニック アソシエイツ鳥取株式会社(以下「当社」という。)は、「働くことを希望する重度の障害者に安定した雇用の場を提供すること」を目的に、鳥取県、鳥取市、鳥取三洋電機株式会社(当時)が共同出資し、第三セクター方式の重度障害者多数雇用事業所として平成4(1992)年に設立、平成5(1993)年から操業を開始した千代三洋工業株式会社を前身としている。
千代三洋工業株式会社は、「ノーマライゼーションの理念の実践を通じ、地域社会に貢献したい」を経営理念に掲げ、鳥取県で初めての特例子会社として障害者雇用を進めてきた。
平成25(2015)年にはパナソニック株式会社(以下「パナソニック」という。)の特例子会社となり、平成30(2018)年4月に現在の社名に変更となった。
(2)事業内容
設立当初はLED(発光ダイオード)素子の加工、検査を行っており、半導体レーザや車載用ランプなどのLED応用商品の製造を経て、現在はLED照明器具の組立製造を行っている。
車載用製品の製造で培った品質管理力を活かし、品質第一主義でモノづくりを行っている。
2.当社の沿革と障害者雇用の経緯
(1)当社の沿革と障害者雇用の経緯
重度障害者多数雇用事業所、及び特例子会社として設立された当社は、創業当初から障害者15名を雇用し、全従業員40名でスタートした。初めての経験である発光ダイオード素子の加工、検査を、障害のある従業員と障害のない従業員が一体となって立ち上げに成功したことにより、今日の社風を形成する土壌ができあがった。
平成6(1994)年5月には天皇・皇后両陛下行幸啓の折、ご視察の機会を得て一躍全国に社名を知られ、以降は各界各層から多くの視察・見学を受け入れている。
その後、半導体レーザの生産事業を当社の主力事業として導入するにあたって、設備増強とともに社員も増加し、障害者数は設立時の目標25名となった。
平成12(2000)年代に入ると、生産品種がLED応用商品に移行していき、平成16(2004)年にはフルカラーチップLED、平成17(2005)年には車載用LEDランプの生産を開始した。
車載製品は要求品質が高く、この要求に応えた生産を行うことによって当社の品質管理能力が向上し、現在の品質管理にも生かされている。この頃には障害者雇用とモノづくりを両立したモデル事業所として県下でも評価され、従業員の自信向上にも繋がった。
平成22(2010)年にはこれまでの活動が評価され、障害者雇用優良事業所として厚生労働大臣表彰を受賞し更なる励みとなった。
平成27(2015)年には親会社が三洋電機株式会社からパナソニックに変更となり、LED照明器具の生産が主流となった。それに伴い、障害者の業務もLED照明器具の組立を中心とした業務にシフトしたため、各々の障害特性に合った業務を見極めて再配置を進めた。
平成30(2018)年4月には、長年地域に親しまれていた社名が変更となり、全社員が新たな気持ちで再出発することとなった。
(2)現在の状況
平成30(2018)年9月現在、全従業員48名のうち19名(うち重度11名)の障害者を雇用、価格競争の激しい電気機械器具製造業の中で雇用の維持に努め、障害者実雇用率は62.5%となっている。障害のある従業員の平均勤続年数は13.5年であり、その内10名は勤続20年以上となっている。
当社の今後目指す姿として、「障害者と障害のない者が一体融和し、競争力のある高い生産性を実現」を掲げており、職場の改善を進めながら個々の力を最大限引き出し、社会にとっても、企業にとっても、必要とされる存在に成長させたいという思いである。
優秀勤労障害者については、在職者のうち、厚生労働大臣表彰1名、鳥取県知事表彰2名、鳥取県高齢・障害者雇用促進協会会長表彰(理事長努力賞表彰)7名が受賞している。
また、スポーツにおいても、デフリンピック、世界ろう陸上、全国障害者スポーツ大会などへの出場を果たすなど活躍している。
3.従事業務
当社の障害のある従業員のほとんどは、主力商品であるLED照明組立に関係する業務に携わっている。
作業風景
従事する業務は、各々の障害特性と適応能力を判断して決めており、種類や内容は以下の通りである。なお、各作業の( )内は当該作業に従事している従業員の障害である。
(1)LED照明組立作業(聴覚障害、知的障害)
→ライン作業、規定の時間で流れ生産を行う
(2)LED照明組立ラインの部品供給作業(精神障害)
→製造ラインで使用する部品を供給すると共に、簡単な不具合対応を行う
(3)LED照明組立作業のラインリーダー業務(聴覚障害)
→製造ラインで使用する部品供給、不具合対応に加えて、聴覚障害者への作業指導・生活指導・相談などを行う
(4)LED照明予備作業(内部障害、知的障害)
→製造ラインで使用する部品の簡易組立、梱包箱へのラベル貼り付けを行う
(5)LED照明部品検収作業(下肢障害)
→製造で使用する部品の受け入れ、検収作業を行う
(6)取扱説明書印刷、ラベル印刷作業(精神障害)
→製造で使用する取扱説明書の印刷、製品や梱包箱に貼付するラベルの印刷を行う
(7)製品仕様データ管理、IT管理、情報セキュリティ管理(下肢障害 車いす)
→製品仕様に関するデータの管理全般、社内PCの管理、情報セキュリティの管理を行う
(8)サービス系受託業務(下肢障害 車いす)
→グループ会社からの依頼による書類保管受付、プリペイドカードの作成・販売等を行う
(9)植木鉢潅水(内部障害 兼務)
→社内の植木鉢へ水遣りを行う
4.取組みの内容
障害者が働きやすい設備などの環境整備はもちろんであるが、職場定着を図るために、以下のような取組みを行っている。
(1)支援体制
- ア.
- 相談体制の整備
創業当初から障害者雇用を行っていたこともあり、全従業員による自然な合理的配慮が行われてきた。しかし、昨今の知的障害者や精神障害者の増加に対応するためには、より個人的な相談を行える「キーパーソン」が必要になってきたため、当社では障害者職業生活相談員(以下「相談員」という。)が中心となって個々の支援にあたっている。
相談員は徐々に増員し、現在は6名体制で、障害のある従業員との面談などを行うとともに、相談員全員による定期的なミーティングを持ち、情報の共有と支援方法の検討を行っている。
また、「とっとり障がい者仕事サポーター」5名、「あいサポーター」3名の配置の他、「健康相談医師」の委嘱を行い、相談がしやすい体制を整えている。
- イ.
- 手話通訳の配置
当社には聴覚障害のある従業員が8名と比較的多いため、朝会や研修などの際には必ず手話通訳を配置している。従業員には手話を使える者が多く、その中でも上達した者が通訳を行っている。
(2)支援機関との連携
障害者の定着を図るには専門的な知識や施策が必要となる場合がある。
当社では、ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどとの連携により、職場実習やジョブコーチ支援を利用すると共に情報交換を行っている。
(3)採用手順など
障害者の採用にあたっては、基本的に次の手順を踏むこととしている。
- ア.
- 新卒採用の場合
職場実習(在学中、約2週間)→社員補(試用期間、約6ヵ月)→正社員
※可能な限り低学年からの実習を複数回実施している。
- イ.
- 中途採用の場合
職場実習(約2週間)→トライアル雇用(3ヵ月~6ヵ月)→契約社員(約2年)→正社員
(4)障害者のモチベーションアップを図る取組み
- ア.
- 多能工化の推進
全従業員の工程熟練度を示す「スキルマップ」を作成し掲示する。個々の従業員はお互いのスキルマップを確認しながら、複数工程のマスターに励む。
- イ.
- 「わたしの挑戦」
年度初めに、全従業員が上司と相談の上で業務に関する「チャレンジ目標」と健康維持、増進に関する「健康宣言」を決め、「わたしの挑戦」と題して掲示することにより、更なる向上心を養う。
- ウ.
- 資格取得の推進
マナー検定や秘書検定などの資格取得を奨励し、資格取得状況を掲示する
- エ.
- アビリンピック(障害者技能競技大会)への参加
アビリンピックへの参加を奨励し、参加者には会社が全面的にバックアップを行う。
- オ.
- 障害者スポーツへの参加
障害のある従業員のなかにはスポーツに力をいれている者も多いが、スポーツ大会に選手として参加する際には休暇を与えるなどの配慮を行っている。選手の中には、鳥取県代表として全国大会に出場したり、デフリンピックに参加し金メダルを取る成績を残したりする者もいる。障害者スポーツに参加することは、余暇の充実につながるものであり、仕事に対するモチベーションも向上すると考えている。
- カ.
- 社外研修への参加、社内研修の実施
各種の団体や機関が開催する研修会などへの参加を推奨している。また、社内での研修を企画・実施し、障害のある従業員を含めた従業員全体の能力開発を積極的に行っている。平成29(2017)年度は合計で35回の研修への参加、開催を行い、社内研修では「多能工になろう」、「はたらく意味について」などをテーマとした。
社内研修の様子
- キ.
- 社内手話講習会の開催
社内での手話使用を広めるため、聴覚障害のある従業員が講師となり手話講習を開催している。
- ク.
- 5S活動の推進と挨拶運動
ものづくりの基本は「5S(整理、整頓、清潔、清掃、躾)」と「挨拶」との考えで、全従業員が交代で毎朝玄関に立ち、元気よく挨拶を交わしている(15年以上にわたって実施)。
(5)地域貢献
地域への貢献として以下のような活動を行っている。
- ア.
- 特別支援学校などでの講演
在校生に「企業が必要とする人材」について直接話をすることで、生徒の一般就労への意欲を高めると共に、在学中に一般就労に向けた訓練を積むことに資する。
- イ.
- ゲストティーチャーの派遣
要請を受けた学校や就労支援セミナーなどに障害のある従業員を派遣し、一般就労に対する考え方や体験談などを直接話し、社会人としての考え方、マナーなどを生の声で感じてもらう。また、派遣された従業員自身にも大きな自信になっている。
- ウ.
- 見学、訓練などの受け入れ
工場見学、障害者委託訓練、職場体験学習、企業実習など時期を問わず受け入れている。
- エ.
- 緑化推進運動とアイドリングストップ運動への参画
構内の緑化推進を図ると共に、アイドリングストップ運動によるCO2削減、緑の募金運動への毎年参加を行っている。
- オ.
- 手話普及促進への協力
鳥取県で手話言語条例が平成25(2013)年10月に制定されたのを機に、鳥取県からの委託により一般向け「手話講習会」を開催すると共に、企業、地域団体などからの依頼により「出張手話講座」も行い、当社開催による手話講座の受講延べ人数は約800人となり、県内での手話普及の一助となることができた。
また、小学校の社会科見学や中高生の職場体験実習の際には、短時間の手話講習をプログラムに入れて、手話に触れるきっかけを創出している。
上記のような手話の普及に関する活動が認められ、平成27(2015)年には鳥取県聴覚障害者協会より感謝状をいただいた。
手話講座の様子
5.取組みの効果、まとめ
(1)取組みの効果
以上の取組みにより、次のような効果が現れた。
- ア.
- 障害者の職場定着率の向上
- イ.
- 障害者一人ひとりの向上アップと自立心の高まり
- ウ.
- 多様な障害者を受け入れる職場環境と気風の広がり
- エ.
- 聴覚障害者と手話への理解促進
- オ.
- 地域社会への障害者理解
(2)まとめ
職場実習生や障害のある従業員からは、「働きやすい」「居心地が良い」との感想をもらうことが多く、長年培ってきた障害者雇用の社風と環境整備によるものであると自負している。
障害者雇用という大きなくくりでは一定の成果が出ているものと感じているが、発達障害者の職場定着はできておらず今後の課題となっている。
近年の求職者の状況を見ると、身体障害の割合が減り、精神障害、発達障害のある方が増加しており、その傾向は今後も強まると考えている。そのため、一人ひとりの特性に合った業務の選定や指導がなお一層できるように進めていきたい。
どのような障害であっても、自己研鑽と協調によって障害のない者と変わらない価値創造ができるような人を育てていくことが当社の使命である。
結果として同業他社に負けない強い組織を構築し、一人でも多くの障害者を雇用していく所存である。
執筆者:パナソニック アソシエイツ鳥取株式会社
総合企画部 管理課長 福田 英吉
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