プロとして清掃業務を任せられる人材として雇用・育成
- 事業所名
- 社会福祉法人 亀甲会(法人番号 9240005012264)
- 所在地
- 広島県三原市
- 事業内容
- 養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、短期入所生活介護事業所、亀甲園デイサービスセンター、亀甲園訪問介護事業所の運営
- 従業員数
- 84名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 清掃 内部障害 知的障害 1 清掃 精神障害 2 清掃・洗濯・訪問介護員(生活支援) 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、知的障害者、精神障害者
- 目次
-
1 事業所外観
1.事業所の概要と障害者雇用の経緯
(1)法人の沿革と概要
社会福祉法人亀甲会(以下「同法人」という。)の前身は昭和25(1950)年に創設された久井村立敬老院であり、これを継承して昭和40(1965)年3月に同法人が設立された。設立以来53年間、地域に根ざした老人ホームとして高齢者の生活支援(QOLの維持向上のための支援)、地域貢献となる事業を運営している。
昭和25(1950)年 久井村立敬老院として老人福祉事業を開始 昭和40(1965)年 社会福祉法人亀甲会を設立、養護老人ホーム亀甲園を開設 昭和50(1975)年 特別養護老人ホーム亀甲園を開設 平成20(2000)年 介護保険事業を開始し、特別養護老人ホームは介護保険事業所となる
介護福祉施設サービス、短期入所生活介護サービスを開始(2)障害者雇用の経緯
老人ホームの入所者の中には、障害を持つ人が認知症になり入所するケースもあり、同じ認知症だからといってひとくくりに対応できないため、個別対応が必要な場合が多い。入所者と接する職員が障害のある入所者に適切な対応をしていくためにも、障害に対する理解を深める必要があった。
また、当初、職員は介護の仕事をしながら清掃の仕事も併せて行っており、職員にかかる負担も大きかった。そのため、生産性の向上を図るため、介護業務と清掃業務を分業することにした。清掃業務の専任者として障害者を雇用し、その育成と定着を目的として平成19(2007)年に1名の障害者を採用することから同法人の障害者雇用は始まった。障害者を雇用し、清掃専任者に配置することで、施設内をこれまで以上に清潔かつ快適に保つことができるようになった。
障害者雇用にあたっては、障害者就労・支援センターやハローワークに相談した。平成19年に最初に雇用した人材は、就労移行支援事業所で訓練中の19歳の方で、ハローワークから紹介があり、3カ月のトライアル雇用を経て、本人の就業の意思を確認し、採用。4年半勤務した。
最初の雇用から11年経過した現在は、障害のある職員4名を雇用(うち2名は正職員)。正職員はそれぞれ勤務歴5年と3年で、非常勤職員の2名も勤務歴は8年と3年になる。正職員の1人は、特別支援学校在学中に同所でインターンシップを経験し、卒業後に入職し現在に至る。
2.職場環境の整備
(1)職場環境の整備
平成19年の最初の雇用からトライ&エラーを重ね、手探りでノウハウを蓄積した。
最初に雇用した方は、発達障害(アスペルガー・自閉症)にてんかんの発作があり、コミュニケーションが難しい状況にあった。雇用する側、雇用される側双方とも初めての経験で、本人のみならず職員の戸惑い、抵抗も大きかった。
しかし、できないから任せないと諦めるのではなく、本人に合った方法を見つけ、その都度改善し対策をとっていくことで、同法人では最初の障害者雇用から現在まで、継続的に障害者を雇用してきた。
同法人では障害のある職員に対して過干渉しないことにしている。障害者のデリケートな感情、感受性を考慮し、褒め過ぎたり怒り過ぎたりせず、本人のペースで淡々と作業できる環境を整えることを心がけてきた。本人の障害特性を踏まえ、ふだんは挨拶程度のコミュニケーションとし、注意する際も数多く挙げるのではなく、ひとつずつ、その都度分けて伝え、褒めるときも本人ではなく、就労前に訓練していた就労移行支援事業所の相談員や地域障害者職業センターのジョブコーチに伝えるようにしている。
- ア.
- 通勤
通勤形態は自宅の場所や障害により異なり、バス通勤、家族による車での送迎、自分で車を運転するなど、さまざまだが、事故に巻き込まれることのないように安全な通勤方法を選択できるようにしている。最初に雇用した職員は、自宅からのバス通勤で、バスの時刻に合わせ、業務のスケジュールを組み立て、当初はジョブコーチが付いて乗車の訓練をするとともに、バスの運転手にも事情を説明し、障害のある方への昇降への配慮の協力を求めた。
現在、正職員2名のうち1名は車の運転が好きなこともあり、自動車通勤をしている。同法人として自動車通勤を認めるにあたっては、遠回りでも広い道を通ること、病院へ通院し診察と薬の処方を定期的に受けることを条件とし、通勤時の安全確保に努めている。もう1人は電動自転車で通勤している。
- イ.
- 非常時の対応
例えば、てんかんの発作が起きた場合、本人が助けを求められないことから、配属先の職員に障害や症状、対応方法について周知・徹底するとともに、職場と自宅をつなぐ連絡網を用意し、いざというときも職場、家族、病院と連携できる体制をとった。折を見て両親に相談する機会を持ち、非常時の対応などを話し合った。
- ウ.
- 薬の服用
精神障害の場合、定期的な通院と薬の処方だけでなく、本人がきちんと処方された薬を服用しているかを障害者雇用担当者(事務長)が確認、把握している。精神状態が不安定になると、行動のフリーズ、業務逸脱に陥りやすいが、その原因として薬を処方通りに服用しておらず、家族も気づいていないというケースが往々にしてあった。薬の服用をきちんと習慣づけることで状態が安定し、落ち着いて業務遂行できることが分かり、そのような対応をしている。
- エ.
- 配慮事項などに関する職員への周知徹底
障害特性などに応じた個別の配慮の内容や、連絡体制などについては、関係する職員に伝え、理解と適切な対応が得られるようにしている。
例えば、15分作業して5分休憩するのは特定の障害のある職員には必要なペース配分でも周りの職員からはサボっているように見えるため、本人が業務を遂行するために必要なペース配分であることを周知徹底した。
本人にいつもと違う言動が見られた場合もすぐに連絡することを周知。対応窓口は事務長に一本化し、職員が異変に気付いた場合は本人に直接声をかけることは避け、窓口へすぐに知らせることを徹底した。
(2)担当業務
現在、障害のある職員は施設内の清掃業務全般を専任で行っている。
介護担当職員が出勤し、人数が充足するのは朝食後のため、以前は介護担当職員の業務は食事後の清掃からだったが、清掃業務と担当を分けたことで、出勤後すぐに介護業務に入れるようになった。
座席が70人分ある食堂は広く、テーブル数も多い。入所者の食事は生活リハビリの一環で、バイキング形式(一部膳組廃止)で入所者自身が行うため、食事のたびに床やテーブルが汚れやすい状態であった。また、汁物が床にこぼれると転倒の危険もあった。清掃専任者を配置することで、業務の効率化が図られた。
現在採用している障害のある職員に共通している一つの作業に集中・徹底して取り組むという障害特性は、清掃業務にいかんなく発揮されており、所内のトイレもピカピカに磨きあげられ、利用した人には「いつ行ってもきれいなトイレ」と評価されている。トイレ、食堂も含め、施設特有の臭いがないのも清掃担当者による日々の業務の成果と言える。
(3)職場配置
同法人では、介護業務と清掃業務を分け、介護業より時間が短く、手順や作業内容がほぼ決まっている清掃業務を障害のある職員が専任で担当している。
外部から「障害があるから掃除をさせているのだろう」と言われたことがある。しかし、同法人では清掃業務を障害者でもできる簡易な業務とは捉えておらず、本人が嫌なら担当させることもない。入所者が快適に生活するために必要な清掃業務を担うプロの専任者であり、戦力となる人材として位置づけ、採用・配置・育成している。
同法人では、事務長がジョブコーチとタッグを組み、清掃作業を細分化し、本人たちが今持つ能力を最大限に発揮できる仕組みを考え、工夫している。その結果、彼らは清掃業務のプロとして所内の戦力となっており、入所者や職員、所外の人からも評価されている。
3.取組の内容
(1)障害者への対応
- ア.
- 清掃業務における工夫
清掃道具は各自に1セットずつ新品を購入し、名前を入れ、本人専用としている。人と兼用し、道具が所定の場所にない場合、不安からパニックを起こす要因となるため、各自が専用の清掃道具で作業に当たっている。
清掃業務は、最初はテーブルふきや玄関周りの清掃といった簡単な業務をジョブコーチに付いてもらいながら始めた。テーブル数が多いため、清掃済みのテーブルが認識できるように、清掃が終わったテーブルに積み木を置いて目印にするといった工夫をした。
- イ.
- 作業への集中を持続する工夫
することが分からない、何をしていいか分からないという不安感からくるパニックを防ぐため、時刻表のように分刻みの細かいスケジュールを作成している。
次第に業務に慣れてくると作業が早く済み、時間が空くことで業務逸脱を起こしたり不安に陥ったりするため、集中できることとして、折り紙やパソコン作業を行うようにした。
時間を決めて折り紙をし、できあがった折り紙は納品箱に入れるといった流れを作ったり、パソコンが得意なことから職員の勤務表の作成などを行ったりするうち、本人も次第に楽しみになり、やる気が起き、励みにするようになった。やることのない時間を作らないことが重要と考えている。
また勤務時間を少しずつ増やし、清掃業務以外にも本人が集中して能力を発揮できる新たな業務(パソコン操作や絵を描くことなど)の広がりにより、正職員として業務の拡大に繋がり、雇用の安定が実現した。
- ウ.
- 一律でなく個別に対応
障害のある職員それぞれに背景や事情があることを理解し、個別に対応することとしている。
例えば、業務についても少しずつできることを増やし広げていくことができるタイプ、時間配分や業務内容を一切変えず規則正しく継続していく方が向くタイプなど、それぞれ異なるので、各自がベストコンディションで業務に従事できるように配慮。また、休憩も一人で静かに過ごすなど、各自が落ち着ける環境をつくっている。
- エ.
- 小さな可能性を見逃さない
障害者の採用時にハローワークの担当者から本人は絵を描くのが得意と聞き、色鉛筆を支給し、納期を決めず、清掃業務の合間に絵を描く時間を設けたところ、回を重ねるごとに精密な描写が上達し、画才が開花。施設内で行う配食サービスの弁当用の絵として採用したところ、利用者からも好評で、清掃業務以外に担当できる能力の発見につながっている。
- オ.
- 相互理解
雇用当初は、障害のある職員と他の職員の間で双方の理解や関係性が構築できていないことから、軋轢が生じた。しかし、障害のある職員が食堂や玄関の清掃に懸命に取り組み、ピカピカに磨き上げるひたむきな姿勢に、障害があるからできないことがあるが、できることも沢山ある。できることを認め、お互い様の気持ちで助け合うことを職員は障害者と接することで学び、障害や障害者雇用についての理解を深めていった。
障害のある職員の中には自分からうまく意思を伝えることができなくてコミュニケーションが取れずにいる者がある。雇用する側や同じ職場の職員がいかに気持ちや意思を汲み取るかが大事で、信頼関係の積み重ねにより言語外のコミュニケーションを障害のある職員自身が肌で感じとるようになる。業務を通じて、自分が必要とされている存在であると認識できることで、業務に取り組む態度にも変化が現れ、安定して業務に従事できるようになっていった。
2 清掃現場(食堂)
3 清掃現場(トイレ)
(2)障害のある職員の声
宗藤久美さん(入社4年:知的障害)
入社して4年になります。汚れているところがきれいになるのはうれしく、入所者から「ありがとう」、その家族の方たちからも「毎回、施設へ来るのが楽しみ」と声をかけてもらい、励みに感じています。
入社当初は環境の変化から体調を崩したこともありましたが、早寝早起きの規則正しい生活を続けるようになってからは快調で、夏場の暑さにもバテなくなりました。
掃除検定を受け、職員さんへモップの使い方や絞り方のコツなど、私が普段している清掃業務を講師として講習する機会もあり、やりがいを感じています。
4 清掃現場(浴室)
5 勘家啓子事務長
(3)管理者の声
事務長 勘家啓子氏
障害者は健常に比べできないことは多いが、できることも必ずある。障害の有無にかかわらず、得手不得手、向き不向きは誰にでもあるのだから、できないからと排除するのではなく、その人ができることで業務が遂行できる役割を考え、環境を整えていく必要がある。
中小の事業所では、空いたポジションに障害者をあてがうのではなく、障害者が適応できるポジションを作ることが大事だと思う。
入所者、利用者に「ありがとう」と声をかけられればうれしいのは障害の有無に関わらず同じで、誰もが働きがいを求め、評価されたいという気持ちがある。仕事で評価されることがその人の存在価値となり、自信や向上心につながる。業務を通じて職員全員が意欲的に働く事のできる機会を提供し、環境を整えていきたい。
4.今後の課題と展望
障害のある職員の中には、自宅と職場が離れており、公共の交通機関にも限りがあるため、通勤がネックになっている者がある。住職近接で安心して勤務するためにも、将来的には社員寮の設置を求められる可能性がある。
11年前に障害者雇用を始め、継続している同法人では、小規模事業所が障害者を雇用する場合、支援機関のサポートなくしては、とても対応できないことを実感する。同法人ではこれまでも業務遂行援助者の配置助成金、特定求職者雇用開発助成金、三原市の障害者雇用奨励金などを活用している。
障害のある職員が抱える個人の事情や家庭環境など、一筋縄ではいかないものもあり、雇用する側としてサポートしきれない問題もあるが、国、市、町の支援機関や制度をその時々で活用しながら支援や助言を受け、ひとつずつ課題を解決していく根気と、長期的な視野で障害者が自立し、厚生年金が受給できる働き方、納税者となる働く場の提供を目指した取組みを行っていくことを同法人は目指している。
執筆者:神垣あゆみ企画室 神垣 あゆみ
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