アトラス萩店

1．事業所の概要

株式会社丸久（以下「同社」という。）は、山口県防府市に本部を置く、食品スーパーマーケット事業を中心とする企業である。創業は昭和29（1954）年と歴史が長く、現在では山口県を中心に、広島県、島根県、福岡県でも「アルク」「マルキュウ」「サンマート」「アトラス」などのスーパーマーケット89店舗を経営している。また、地域貢献活動として地産地消拡大に向けた取組みも精力的に進めている。

同社の平成30（2018）年6月の障害者雇用率は2.59％であり、グループ店舗のほとんどで1名以上の障害者の雇用を達成しているなど、積極的な障害者雇用を実現している企業のひとつである。特に、今回の取材先であるアトラス萩店（以下「同店」という。）では8名の障害のある従業員を雇用しており、全店舗中で最多となっている。

2．障害者雇用の経緯

同社では、かつては従業員の障害者に対する偏見などがあり、障害者雇用が思うように進まなかった過去があった。そうした状況に危機感を抱いた当時の担当者（人事能力開発部の障害者採用担当者で、以下「担当者」という。）は、県内の特別支援学校を訪問し、高等部生徒の職場の受入れやトライアル雇用の実施を積極的に行った。特に職場実習では、何度も繰り返すうちに高等部生徒のまじめさと丁寧な仕事ぶりに触れ、従業員の障害者に対する理解も次第に進んでいった。

特別支援学校高等部生徒の職場実習受入れは現在でも積極的に行っており、毎年20名程度の生徒を受け入れている。職場実習では、生徒のニーズに応じて精肉や青果、加工食品など様々な部門を経験させ、生徒の適性を見極める機会としている。その結果、実習をきっかけに雇用につながるケースも多く、職場定着率（勤続5年以上）も6割以上と高い水準を達成している。

3．障害者雇用の事例

前述のように同店では8名の障害のある従業員が働いているが、障害者に特化した部門などがあるわけではなく、既存の各部門の中で業務を担当している。一人ひとりの希望や特性に応じて業務が分担されるため、幅広い部門で障害のある従業員が働いているというのもひとつの特徴であろう。例えば、平成24（2012）年に入社した知的障害のあるAさんは、水産部門で塩干魚の加工や盛り付け、値付けや陳列業務を行っている。また、平成29（2017）年に入社した知的障害のあるBさんは、加工食品部門で商品の補充や陳列業務を行っている。その他にも青果部門や精肉部門、惣菜部門、レジ部門など様々な部門で障害者が勤務している。こうした雇用を支えているひとつの要因として、特別支援学校や支援機関と密に連携し、本人の特性や支援の方法などに関する細かな情報を共有している点が挙げられる。そのことにより特性に応じた業務の分担や指示の出し方が可能となり、従業員同士のコミュニケーションも円滑になる。また、苦手なことだけでなく得意なことに関する情報も得ることで、その強みを他の従業員にアピールするとともに、従業員の障害者に対する理解を深めることができている。

水産部門で包装・値付け業務を行うAさん

加工食品部門で補充・陳列業務を行うBさん

以下では同店で勤務している障害者のうち、特にレジ部門で勤務しているCさん（精神障害）と加工食品部門でパソコンによるポップ（値札広告）の作成業務をしているDさん（肢体不自由、高次脳機能障害）の2名について具体的な事例を紹介したい。

（1）Cさん（精神障害）

Cさんは平成24（2012）年に入社し、現在は1日5時間勤務でレジを担当している。従業員やお客様とのコミュニケーションには問題はないが、精神障害があるため気分や体調が優れず仕事を休む日が続く場合もある。Cさんは大変責任感が強く、仕事を休むことについても「他の従業員に迷惑をかけて申し訳ない」という罪悪感を抱いてしまう。そうしたときは店長や部門の責任者(チーフ)が丁寧にCさんの話を聞き、「遠慮なく休んでもいいよ」とCさんの不安を和らげるようにしている。また、チーフを中心にシフトの調整もその都度こまめに調整している。店長やチーフのCさんを包み込むような支援により、Cさんも安心して働くことができている。

レジ部門で接客業務を行うCさん

（2）Dさん（肢体不自由、高次脳機能障害）

Dさんは中学生の時の事故により肢体不自由と高次脳機能障害となり、特別支援学校に入学した。高等部での職場実習を同店で行なったことをきっかけに、卒業後の平成26（2014）年に入社した。入社に際しては地域センターのジョブコーチによる支援を受けている。現在は1日3時間(15～18時)勤務で加工食品部門のポップを作成する業務を担当している。Dさんには高次脳機能障害により記憶に障害があるため、ポップ作りに際しては、上司が予め「○日～○日のポップ」というように先の予定を示し、見通しを持ってポップを作ることができるように配慮している。また、ポップ作りはすべてパソコン操作で行えるようになっており、上肢のマヒがあるDさんも作業ができるようになっている。加えて、パソコン上にポップ作りの計画表が表示されるようにしているため、Dさんは作業の進捗状況を随時確認しながら進めることができる。その他にも転倒を防ぐため作業をするイスの後ろに壁が来るように配置するなどの環境整備も行われている。

さらに、Dさんの入社をきっかけに高次脳機能障害をはじめとしたさまざまな障害の特性などについての社内研修も進められるようになった。高次脳機能障害に関する研修会の資料を社内で共有したり、保護者や特別支援学校の教員、ジョブコーチらと積極的に連携を取り、本人の特性や支援の方法などについて詳しい情報を得たりして、障害者を受け入れる体制を整えている。また、地域の障害者就業・生活支援センターとも連携を取りながら、必要な助言を受けている。

Dさんは今春より通信制の高校に入学しており、さらなるキャリアアップを目指している。また自動車の運転免許の取得も希望しているという。担当者はこうしたDさんの私生活での相談にも対応し、公私ともにDさんを支えている。

パソコンでポップの作成業務を行うDさん

Dさんの作業環境：イスの後ろを壁にすることで転倒を防いでいる

4．今後の課題

同社では障害者雇用に関する今後の課題として以下の3点を挙げている。

一つ目は、障害者雇用率3％を目指すということである。その背景にはもちろん法定雇用率の引き上げなどの社会の流れもあるが、何より障害者が重要な会社の戦力になっているという実績が障害者雇用を進める原動力になっている。

二つ目は、聴覚に障害を持たれている方の雇用の幅をさらに広げていくということである。現在でも聴覚障害のある方が雇用され、加工食品やレジといった部門で活躍しているが、まだまだ人数が少ないのが現状である。もちろんコミュニケーションの取り方や危険の知らせ方などの課題もあるが、一つひとつクリアしながら、今後重要な戦力として聴覚障害者の雇用を広げる方針である。

三つ目は、障害のある従業員がキャリアアップを目指すことができる職場を作ることである。現在はパート社員が多いが、以前には知的障害のある従業員がパート社員から契約社員に10年かけてステップアップした事例もある。障害のある従業員が自らの能力を最大限に発揮し、その結果としてキャリアアップできる土壌を築くことで、一人ひとりが目標を持って働くことができる職場を目指している。

5．終わりに

今回の取材を通して、同社では実に自然な形で障害者雇用が進められていると感じた。取材に応じて下さった担当者の方は、「もっと視野を広げてほしい」「仕事を教えるだけでなく自立を目指せるようにしたい」「そのためには言いたいことは言えるような自己表現の仕方も教える」と語られた。特別支援学校をはじめ地域とつながりながら障害者雇用を進めている株式会社丸久は、仕事の先にある「自立」を目指してこれからも地域になくてはならない企業として在り続けることであろう。

執筆者：国立大学法人　山口大学教育学部　講師　宮木　秀雄