事業所外観

1．事業所の概要

株式会社富士インパルス（以下「当社」という。）は、大阪府の豊中市に本社を置くインパルスシーラー、プリンター、塩ビ溶接機のメーカである。三好工場（以下「当工場」という。）は、平成3（1991）年4月に三好町（当時）の誘致企業として、本社から1名赴任し、地元採用4名、計5名の社員で操業を開始した。現在の社員数は35名、すべて地元採用である。

創業時の生産品目は1機種のみであったが、現在は約30種のインパルスシーラーを製造出荷しており、部材も切削部品は社内加工している。

注：インパルスシーラーとは、ポリエチレン、ナイロンポリなどの包材(袋）をインパルス式により熱溶着（シール）する機器（シーラー）です。インパルスの意味は、ごく短時間に流れる大電流、電圧のことで、インパルスシーラーはリボン状のヒーター線に瞬時に電流を流し、ヒーターを加熱、対象の包材をシールします。

2．障害者雇用の経緯

当工場では、3年前の平成27（2015）年8月から知的障害者1名の障害者雇用が始まった。以前に中途の身体障害のある社員を本社で1名雇用していたが、その方が平成20年に退職して以降、当社では障害者を雇用していなかった。

そのため、法令等による障害者の雇用義務を果たすという観点から、まずは本社から障害者雇用に取り組もうと試みるが配属できる部署がなく断念した。一方、当工場では業務拡大により生産品目も増えており、採用の可能性が期待されたが、営業部門や開発部門からの高い要求に応えねばならず、ミスがクレームにつながるという怖さがあり、ピリピリとした職場環境であった。そのような状況下で障害者を雇用しても、障害のある従業員への負担になり、また指導する側、管理する側から不平不満も生まれるのではないかと懸念し、障害者雇用に対して非常に消極的であった。

そのような時、ハローワークからの助言を通じて障害者就業・生活支援センターはくあい（以下「支援センター」という。）の存在を知り、当工場の人事担当者（工場長）が障害者雇用について説明を受けることになった。

最初のうちは、支援センターの職員と真っ直ぐ向き合って話を聞くことはできず、「障害者雇用を避けられるなら避けたい」という気持ちで話を聞いていた。しかし、支援センターの担当者が非常に熱心な方であり、障害者雇用について分かりやすい説明を重ねて聞くうちに興味が湧いてきた。最終的には、一度障害者に会ってみたいと思うようになっていた。

早速、支援センター職員同席の下、当工場への就職を希望する障害者（以下「Aさん」という。）との面談を行った（本稿執筆者の細田も工場長として同席）。Aさんは物静かに受け答えをしていたが、「働きたい」という意欲と、「働く」ために自分が苦手なことを明確に伝えてきたことは印象深かった。また前職のエピソードも聞き、自分の仕事に対して誇りを持っていたことや、自分の居場所を大事にしたいということも伝わってきた。面談を通じて、本人から働きたいというしっかりした意思表示があり、仕事に対する心構えについて強い気持ちをもっていることがわかり、非常に驚いた。面談していたこちらも、身の引き締まる思いがした。

その後、支援センターの協力を得て3日間の職場体験実習を経て正式採用になり、現在に至る。

3．取組みの内容

当工場では障害者雇用を行ったことがなかったため、どのように対応したらいいのか手探りの状態でAさんの雇用は始まった。

まず、指示系統を統一しAさんが混乱しないようにするため、実習中と同じく指導担当者を絞り、多くの社員が指示系統に関わらないようにした。

次に、Aさんが理解しやすいように、口頭指示のみではなくモデリングやビジュアルによる指導を心がけた。仕掛品を組み立てる際の手順書を見ながらマンツーマンで仕事を教えていく中で、細かく指示内容が記述されていない箇所と、作業手順を写真のみで載せている箇所の理解が難しいことに気がついた。そこから、少しずつ手順書の改定を進めていき、どこに何があるかということも分かるように表示した。そうした試行錯誤を続けながら、手順書を整えていった。

そして、Aさんが担当している業務は日によって内容が変わるので、自分の作業サイクルを理解しフィードバックができるよう、また次の作業へスムーズに移行できるよう、完成品と完成記録との点検内容をノートに書くように指示した。

しかし、一定期間の後にノートをチェックしてみると、ただ作業内容を書いているだけであり、こちらの意図していたことが伝わっていないことが判明した。予め指導担当者がしっかりと考えをまとめて指示していなかったこと、ノートに書くことでどのようなことが分かるのかをきちんと説明できていなかったことを強く反省した。

この経験を踏まえ、指導担当者はAさんへの事前説明をしっかりとすること、その意味をしっかりと伝えることを意識するようになった。

トランス巻作業1
（巻き始め）

トランス巻作業2
（ターン数入力）

トランス巻作業3
（後方からの写真）

仕掛部材の準備作業

4．取組みの効果

現在では、手順書の整備が完了し、誰が見ても分かりやすい手順書が完成。工場内で広く使われている。Aさんに任せられる作業も多くなり、工程内検査も行えるようになってきた。特別に作業を掘り出すのではなく、既存の業務で本人の特性に合った業務を割り当てることで、知識を吸収し技能も向上している。決められたことを最後までやり抜き、得意分野の作業を広げる経験をつむなかでAさんの自信にも繋がっている。

また、Aさんの真面目な性格と、仕事に対する姿勢は周りの社員のお手本になっている。障害者雇用に取り組むことで、社員のモチベーションや生産性への良い影響も現れている。

5．今後の課題と展望

現在、当工場ではマンパワーの不足が懸念されている。そのため、Aさんにいかに高度な仕事を任せられるようにするか、そして、当工場とAさんの双方が向上できる道はないかと考えている。実際、少しずつではあるがAさんに任せる作業が増えてきている。将来できる限り自立して作業に取り組んでもらうために、何事にもチャレンジしてもらうことが大切だと考えている。

また、今回、三次元測定機を導入することになった。繰り返し作業を得意とするAさんは、コツコツ根気よく働く姿勢があるため、最新鋭の測定機を使いこなせるよう指導に取り組みたいと考えている。このことは、マンパワーの不足解消というだけでなく現場自体の底上げにもつながると考えている。

当社としては、今後の障害者雇用もさらに増員していきたいと考えている。ダイバーシティ経営を目指し、多様性をもった社員とともに、心優しい社員が自分の仕事に誇りをもてるよう、働きやすい環境整備にも重点をおいていく計画である。

執筆者：富士インパルス株式会社　三好工場工場長　細田　和代　　　　　　　　
障害者就業・生活支援センターはくあい　就労支援ワーカー　真鍋　義