障害のある社員を重要な戦力へ!
- 事業所名
- ハウステンボス株式会社(法人番号 6310001005886)
- 所在地
- 長崎県佐世保市
- 事業内容
- テーマパーク、ホテルなどの運営
- 従業員数
- 1,200~1,300名
- うち障害者数
- 24名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 ショップ 肢体不自由 9 アトラクション、場内清掃、カスタマーセンター 内部障害 6 商品開発 知的障害 5 場内清掃 精神障害 3 アトラクション、ショップ 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 精神障害、聴覚障害、知的障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
ハウステンボス株式会社(以下「当事業所」という。)の開業は、平成4(1992)年3月。事業内容としては、テーマパーク事業、ホテル&リゾート事業、レストラン事業、物販事業、エネルギー関連事業など幅広く事業を展開している。当事業所は、住所は佐世保市ハウステンボス町、最寄りのJR駅名はハウステンボス駅、その駅に停まる列車名はハウステンボス号と命名されるなど地元の期待を受け、地元に根付いた事業所になっている。また、当事業所の敷地は、約1.52km2の広さがあり、テーマパーク事業所としては日本最大の敷地を有している。
事業の基本的な理念は、単なる観光を目的としたテーマパークだけではなく、世界の人々が“一度は訪れたい”と憧れる「観光ビジネス都市」を目指すことである。そこには、さまざまな目的を持った人々が世界中から集い、全く新しい街を創造する。当事業所は、日々、「観光ビジネス都市」の創造を目指して変化を重ね、常にチャレンジャーであり続けているところである。もちろんテーマパークとしても四季折々、圧倒的なボリュームでチューリップやバラ、あじさいが街を彩るなど、日々進化を遂げている。
(2)障害者雇用の経緯
障害のある方の雇用を進める理由は、障害者の法定雇用率の達成もあるが、自社の事業が労働集約型であり多くの人を必要としているものの、地理的に佐世保市中心部から離れており社員を採用しにくいという状況がある。このため障害のある方の力を借り、障害のある社員、一緒に働く障害のない社員、これをサポートする会社とが一体となり、全社員が一緒に仕事をして良かったと思える職場にしたいということがきっかけとなっている。
障害のある方の雇用は、以前からも行っていたが、本格的に始めたのは平成28(2016)年からである。人事総務部を中心にして各店舗・ホテルなどの店長・館長の協力を得て組織的に障害のある方の雇用を推進した。その結果、平成29(2017)年には加速度的に雇用が進み、いまでは24名の障害のある社員が活躍している。
2.障害者雇用の取組み
(1)募集・採用、教育
障害のある方の採用は、まず、当事業所の求人に対するハローワークからの応募、ハローワーク主催の合同面接会での応募、特別支援学校からの直接の応募を受ける。そして、次に選考を行う。応募者は、障害者就業・生活支援センターや、グループホームの利用者、特別支援学校の在校生などである。
応募を受けると、事前に人事総務部採用担当者が、本人が活躍できるような職場と調整し、職場の担当者の同席も得て面談を行う。その後、職場実習という形で業務内容と本人の適性のマッチングを行う。マッチングでは、勤務態度、仕事を行なう上での障害の影響度合い、安心・安全な業務ができるか、コミュニケーションがとれるか、仕事を理解できるかなどを確認している。実習期間は、実習者の状況を確認しながら概ね2週間から1か月としている。
マッチングが確認できたら最終面談の後、採用決定という手順を取っている。
障害のある社員の採用後の教育については配属先の現場主導で行っている。これは、当事業所では多数の職種、施設があり、障害がある社員向けマニュアルの作成が難しいという当事業所ならではの事情がある。このため指導者となる店長・館長が主体となり親切丁寧に教えている。職場、職種により指導方法は異なるが、教える際の軸は、障害のない社員も障害がある社員も変わらず、「常にお客様主語である事」である。これにより一人ひとりが自ら考え行動し、沢山のお客様の要望に応えていくことができるようになる。当事業所では、上司や先輩よりもお客様から直接学ぶ事こそが成長に繋がるという考えが基本にある。
また、それぞれの職場で独自に障害のある社員に対する対応を行い、各店舗で生じたさまざまな問題を課題としてとらえ、社員自身で克服することが、店長も障害のある社員も障害のない社員も社員全体が成長するチャンスだと考えている。このため問題の発生をむしろ歓迎している。
(2)社員クラブでの雇用事例
A店長は、勤続2年。入社以来、事業所の敷地内に4カ所ある社員クラブ(社員食堂)の内の1つの社員クラブで勤務している。A店長の職場への障害のある社員の配属は、6か月前に人事総務部より打診された。
A店長は、障害のある父親を10年近く介護してきた経験と、母親も認知症で入院中という家庭環境があるほか、20年前には半年ほど介護施設での就労の経験がある。
障害のある社員の配属を打診されたとき、これらのことに思いを起こし障害のある方との仕事も職場で障害のことを勉強しながら対応できるのではないかと考え、受入れを決めた。
- ア.
- Yさん
最初に受け入れたのはYさんである。Yさんは、40代で障害は精神障害(うつ病)である。1年半前に当事業所へ入社。最初は事業所内にある塵芥処理センターに所属されたが、そこでの人間関係が上手くいかなかったことと、仕事で使う大きな自動車を運転することに不安があったため植栽部(草花の手入れ)へ異動になった。しかし、植栽部でも人間関係が問題となり、調理補助が活躍できるのではとの意見があり半年前にA店長の社員クラブに異動となった。Yさんの仕事は、社員クラブのレジ、簡単な調理、社員クラブの備品の洗濯などである。
Yさんの障害の具体的な症状は、パニックになることである。社員クラブは、昼食時にお客さんである社員が集中する。レジを担当しているYさんは、レジにお客さんが10人くらい並ぶと頭が真っ白になる。手が震えて、何も分からなくなる。また、Yさんが受け持っているレジは、レジの操作を間違うとエラー音が出るので、その音でパニックになる。
A店長は、Yさんにお客さん1人につき1分掛かると考えて10分待ってもらうように思えばいい、お客さんは待ってくれると指導している。
Yさんは、A店長が傍で見ていると一瞬動作が止まることなどがみられることが時々ある。そんな時は、A店長はYさんを外に連れ出し、気分転換を図るようにしている。外に連れて行くとYさんの顔つきが柔らかくなる。また、Yさんの仕事が上手くいっている時は具体的に褒めるようにしている。こうした対応によりYさんは安定的に勤務している。
- イ.
- Sさん
次にA店長が受け入れたのはSさんである。Sさんは40代で、障害は聴覚障害である。耳は全く聞こえない。入社は、1年半前で、Yさんと同じ頃である。入社当時はレモンステーキの店に調理職で配属となった。耳が聞こえない分、見ることに長けていて調理は目で見て覚えていった。仕事は非常にできたが、肉汁アレルギーとなり4か月前にA店長の職場に異動となった。
Sさんは、パートとして1日7時間の勤務である。定期の休み以外はほとんど休まずに毎日出勤している。Sさん自身も、仕事に対してやり甲斐を感じており、仕事に対する姿勢は積極的で自分から進んで学ぶ姿勢がある。
A店長は、Sさんを受け入れるための準備としてSさんの前店長にSさんの仕事ぶりなどを確認した。前店長からは、Sさんとは信頼関係を作る事が大事で、その信頼関係は、キチンと納得するまで話をしないと生まれないとのコメントがあった。
A店長は、店内4~5名のスタッフ全員に対して、Sさんを受け入れるにあたりコミュニケーションをとることが大事であることを説明し、一対一の対話の時は必ず相手の目を見て話をするように指導した。
また、Sさんには、社員クラブは忙しいところなので、忙しくなったときには職場のテンションが上がり、皆の動き方が変わり、声が大きく、言葉が荒くなるが、Sさんの事を変に思ってやっていることではないことを事前に説明した。
コミュニケーションの手段は、身振り、手振り、ホワイトボードへの書き込み、紙での筆記、パソコン、スマートフォンでのメールのやり取りなどでとることとした。
このような準備を行いSさんを受け入れたが、実際に受け入れてみると、Sさんが受けた第一印象で信頼関係が築けた社員と信頼関係が築けない社員に分かれた。
それは、Sさんが話し掛けたときの社員の対応によると思われた。今忙しいから少し待ってと言った人、忙しくても話をした人、今忙しいからごめんねと言った人などに対応が分かれたが、Sさんは、忙しいから少し待ってとだけ言った社員に対しては、嫌われているのではないかという感情を持ってしまい、信頼関係が作れなかった。
Sさんは、相手の表面的な行動でその人が何を思っているのかを判断する傾向がある。社員同士が話をしているのを見るだけでも悪口を言われているのではないかと疑ってしまう。信頼関係がある社員が話しているのを見るのは気にならないが、信頼関係がない社員同士が話しているのを見ると気になるようで、ちょっと笑っていてもSさんの表情は曇る。ある時、SさんからA店長に対して、他の社員が私の悪口を言っていると相談があった。その時は、そうではないことを説明してSさんの納得を得たこともあった。
A店長は、Sさんと信頼関係を作るには正対してコミュニケーションをとることが必要と考え、Sさんの目を見て、ゆっくりと話すこととし、指導する時はハッキリと良いこと、悪いことを説明した。また、他の社員にも同様の対応を指示した。
そうした対応により、しばらくはコミュニケーションは上手くいっていたが、日にちが過ぎるにつれてSさんと他の社員との意思の疎通が悪くなっていった。Sさんにもその事は分かり、表情が硬くなっていた。A店長は他の社員と、なぜ意思の疎通がうまくいかないかを話し合った。社員の答えは、Sさんと話していたら仕事をする時間がないというものであった。A店長は、対応を模索しはじめた。
そうしたなかで、社員クラブ全体での業務量に基づく社員配置の見直しがあり、Sさんは別の社員クラブに異動となった。異動先の社員クラブは、女性社員が多いことや以前に一緒に働いていた社員がいることもあってか、Sさんの表情は柔らかくなり、意思疎通に関する支障はほぼなくなった。日々の仕事ぶりにも問題は起きていない。
A店長は、あらためて職場でのコミュニケーションや人間関係の難しさと重要性を認識した。
社員クラブ(社員食堂)がある建物
Sさんが働く異動先の社員クラブ
社員クラブで働くSさん(右)
- ウ.
- Iさん
Iさんは20代で、障害は、知的障害である。入社後1年弱経過。当事業所が、ハローワークへ出したショップアシスタントの求人に応募して採用となった。採用後のIさんの職場は、カステラショップである。カステラショップへの障害のある社員の配属は初めてである。Iさんがカステラショップへ配属となったのには理由がある。もともと当事業所には障害のある社員のために新しい職場を開拓し、障害のある方の採用を増やそうという戦略があったことがその理由の1つである。そこにIさんが採用になり、本人がコミュニケーションを取れること、ショップでのお客様の商品についての問合せに対し、「少々お待ち下さい、分かる者に聞いて参ります。」などの対応がとれる能力があることが新しい職場の開発に繋がった。
ショップアシスタントの仕事は、お客様に試食として提供するカステラを切り分ける作業、カステラを2個入り、6個入りにまとめる袋詰めの作業などがある。部署にはIさんの他に8名が所属し、その方たちとは仲良く仕事をしている。店長のMさんは、障害のない社員のために作業マニュアルを作成していたが、Iさん向けに、分かりやすい文章や写真やイラストを使ったマニュアルを新たに作成した。Iさんは、そのマニュアルを見て、仕事のスキルを身につけている。
3.今後の展望と課題
当事業所では、細分化しなくとも100種類の職種があり、障害のある方が担当できそうなものがあると考えている。これからも積極的に障害のある方の雇用を推進していく予定である。障害のある方の雇用は、全社員の5~10%の規模を考えている。
今後の課題としては、社内で障害のある社員が活躍できる職場を開拓することである。現在、電話のオペレーター、お客様問合せ部署などで障害のある社員が活躍しているが、人事担当など障害のある方がもっと活躍できる職場は他にもあるはずだと考えている。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
長崎支部 高齢・障害者業務課 麻生 香
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