「自分が必要とされている」と実感できる環境を継続させる。
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事業所外観
1.事業所の概要
「社会福祉法人足利むつみ会」(以下「当会」という。)は、昭和59年12月に設立され、「誰もが、地域で安心して生活できる社会の実現を目指します」を法人理念に、子どもから高齢者まで、障害があっても、なくても誰でも地域の中で、自立して安心した生活を営むことができる社会づくりを目指すことを目標に、障害福祉事業、老人福祉事業、児童福祉事業などの社会福祉事業や公益事業を実施している。
本稿では、当会の公益事業である屋内子ども遊び場「キッズピアあしかが」(以下「キッズピア」という。)の業務の一部受託や自主事業として軽食などの販売を行う「社会就労センターきたざと」(以下「きたざと」という。)の就労継続支援A型における、障害者雇用の取組みなどを紹介する。
なお、当会の社会福祉事業・公益事業の内容は、以下のとおりである。
(1)社会福祉事業
- ア.
- 障害者総合支援法による多機能型事業所 3か所
- 生活介護・就労継続支援A型・就労継続支援B型 1か所
注.きたざとがこの事業所であること。 - 生活介護・就労継続支援B型 1か所
- 就労移行支援・就労継続支援事業B型 1か所
- 生活介護・就労継続支援A型・就労継続支援B型 1か所
- イ.
- 放課後等デイサービス 1か所
- ウ.
- グループホーム 1か所
- エ.
- 日中一時支援 1か所
- オ.
- 障害者就業・生活支援センター 1か所
- カ.
- 障害者相談支援センター 1か所
- キ.
- 特別養護老人ホーム 1か所
- ク.
- 保育所 1か所
(2)公益事業
- ア.
- 屋内子ども遊び場 1か所
2.障害者雇用の経緯
当会は、法人設立前から小規模作業所を運営し、障害者の働く場として地域産業とともに様々な経験を通して充実を図ってきたが、障害者を取り巻く環境が大きく変わる中、法人設立後は、就労支援として障害者のための働く場の確保・拡充を図るとともに、障害者雇用につながるよう様々な支援を行ってきた。今後、ますます障害者雇用の重要性が増してくることから、これまでの知見を活かし障害者雇用の実践を図るため、障害者雇用の取組みとして就労継続支援事業所A型(雇用型)をきたざとに設置した。具体的には、足利市の施策として当会が整備し、平成26(2014)年12月に開設した公益事業(屋内子ども遊び場)であるキッズピアにおける障害者の就労の場の確保という点で、障害者雇用との関係性を見出すことができたからである。
キッズピア風景1
キッズピアは、地域の子どもたちの運動機能の向上や子育て世代の支援、地域の活性化など、にぎわいの創出を目的としており、約1、550平方メートルの面積の中に6つのゾーン(サーキット・ロールプレイ・アクティブ・ベビー・メディアアートブース・休憩エリア)に、大小40種類以上の遊具を設置し、「あたま・心・からだ」を思い切り使って、親子で遊べる屋内施設である。
キッズピア風景2
遊びを通して、子どもの健全育成を図り、子育て世代の有機的な結びつけを強めるとともに、地域の活性化や賑わいの創出を図るというキッズピアの理念の中でも、利用者である子どもと障害のある従業員が遊びを通じて共感しうることや、単純作業ではあるが一つのことをコツコツとやり遂げることができるという特長を有する者が多いきたざとの利用者に合致していること、そして多くの利用者親子と接する機会を得ることで障害のある従業員自身の社会性を育む効果が期待されることなどから、キッズピアの業務の一部ではあるが、障害者雇用の場にふさわしいとの判断から、主な業務を遊びの支援や場内清掃、軽食など販売における接客業務などとして障害者雇用の場につなげたものである。
なお、きたざとの就労継続支援事業所A型(以下「A型」という。)では、現在知的障害者5名、精神障害者2名、高次機能障害2名、難病1名の計10名の障害者を雇用している。
3.障害者雇用の取組み
(1)採用
現在、A型で就労している障害者の採用ルートは様々で、主なルートは、ハローワークを通じての採用や障害者就業・生活支援センターからの紹介、地域の障害者就労支援施設(就労移行支援事業所・就労継続支援事業所B型)からの紹介、障害者相談支援センターからの紹介、国立障害者リハビリテーションセンターからの紹介、特別支援学校の職場実習の修了者などである。採用に当たっては、きたざとにおける業務体験や実習を通して、業務に対する適性などを判断することを重視している。採用時面接における本人情報も必要ではあるが、実際に業務を体験・実習することで、それぞれの能力や適性を把握することができ、さらに周囲との良好な人間関係を築くことができるなど、採用後もスムーズに業務を行えることが多く継続した勤務につながっている。
(2)雇用形態・労働時間・賃金・通勤方法など
雇用形態は、基本的に無期契約。労働時間(勤務形態)は、週25時間(1日5時間)、週30時間(1日6時間)及び週40時間(1日8時間)の3種類を設け、これらの労働時間の中から、本人の希望により選択できるよう配慮につとめている。また、身体的、心理的な状況変化に対応した労働時間の変更などにも配慮し、無理なく安定して勤務できるよう対応している。
賃金は、栃木県の最低賃金以上の金額を支払っている。また、通勤方法も様々で、徒歩・自転車・自家用車・鉄道などを利用し通勤している。
(3)業務における工夫や取組み
新しく採用した障害のある従業員については研修を行っており、最初に共通の座学で、どのような仕事や役割があり、なぜそのような事が必要かなどについての説明を行い、基本的な事項を理解してもらっている。
また、職場では障害のある従業員一人ひとりに「1日のタイムスケジュール」を作成し一覧表にしていて、この一覧表を見れば自分のポジションが確認できるようになっている。ポジションごとの役割は、最初の座学で説明しているが、実際に各ポジションをローテーションに組んで、職員が同行し、細かい業務の確認を行う形で進めている。さらに、毎月1回全体でのミーティングと勉強会を行い、業務に関する確認事項やクレーム対応及び接客技術の向上などについて理解を深め、研鑽を積んでいることで、直近で起こった課題などに対してもすぐに対応できるとともに、必要な情報を共有し改善策につなげられたという効果を生み出している。さらには、日々の申し送り書や連絡帳などを使用し確認を行うとともに、場内の清掃や準備・片付けなどに関するポジションごとの手順書を作成して、迷わずしっかりと業務に取り組めるよう工夫している。研修やミーティング、勉強会の実施に際しては、教材の表現を分かりやすいもの(具体的行動を記載する、フリガナをつけるなど)にする、あるいは、事前に参加者が記入する質問紙型資料を配付しておくなどの工夫を行っている。
このように手順書を活用するとともに、ミーティングや勉強会を積み重ねて行うことで、業務に対する理解や実践能力が増す効果が見られ、障害のある職員と障害のない職員との関係性においても、コミュニケーションが深まり、お互いに助けあって仕事を行おうとする気運が高まってきている。職員としては、障害のある職員にいかに自信を持って働いてもらえるか、体調の悪い時はどのように対応するか、うまくできない業務に対してはどのように行えるようにするかなど、一人ひとりの状況に応じて対応できるよう日々取り組んでいる。
ハード面でも、インカムや電話機内線を活用し、職員間の連携を図っている。
子どもへの遊び支援をするスタッフ1
子どもへの遊び支援をするスタッフ2
(4)現在就労中の事例から
- ア.
- Aさん(高次機能障害・60歳代、週5日・一日8時間勤務)
脳梗塞後障害を発症。入院拒否が強く早期に退院。仕事に復帰するも3か月でうまくいかず離職。病院ワーカーからきたざとに相談があり、施設見学・体験を経て採用する。人当たりもよく、動くのが好きな性格もあり、短期記憶などの課題はあったが3年以上継続している。なお、現在もリハビリを続けながら就労中。
きたざとではモニタリングにより社員から話を聞いており、Aさん自身の声は次のとおり。「すぐに覚えるのには難しいことがあるが、何かあれば周りの職員がサポートしてくれて助かっている。お客様も含め多くの人と接することができてありがたい。これからもキッズピアの仕事を続けていきたい。」
- イ.
- Bさん(知的障害・30歳代、週5日・一日7時間勤務)
特別支援学校卒業後にヘルパーの資格を取得し、デイサービスで介護職として5年ほど従事するも直属の上司が異動などで変わってしまい、業務の確認・相談がうまくできなくなり退職。その後の就職も環境が変わることでなかなかうまくいかなかったが、きたざとの施設見学・体験を経て採用。理解度も高く、子どもとの接し方も良好で、Aさん同様、3年以上継続している。プレッシャーに弱く、不安になることは多いが、その都度話を聞くこと、自信を持たせることで安定して業務をこなしている。
Bさん自身の声は次のとおり。「プレッシャーに弱いので、イベントが近づくと不安でお腹が痛くなったりしますが、無事終えるとほっとすることと、みんなで終えた達成感、子どもたちから楽しかったといわれることがうれしいです。自分でしなくてはならないことも多いですが、職員が話を聞いてくれ、アドバイスしてくれるので、仕事は楽しいです。」
Aさん、Bさんとも、勉強会などで遊具の扱い方、接客方法、お客様への声掛け・アプローチの方法について学んだあとには、必ず自分から実践するなど、成果をあげている。
4.今後の展望と課題
キッズピアもA型もオープンして3年半が経過するが、A型の利用者のうち、7名が3年以上にわたって就労を継続し、このうち一般就労へ繋がった者が2名ある。この仕事は、接客サービス業として一般の方に直接関わる仕事であり、障害福祉の仕事としては貴重なものだと考えている。さらに、地域貢献として子育て世帯に関わることのできる仕事でもあり、地域から必要とされていることを実感できる魅力的な仕事と考えている。
障害のある職員にとってもそうでない職員にとっても、業務に対しやりがいを感じ、楽しく従事できることが大切であるが、事業所としては、これを受けて真摯に取り組める業務環境を創出し、継続させることが重要であると考えていることから、“あれもこれも”ではなく、“ひとつずつ”焦らず・諦めない姿勢で取り組めるよう粘り強く接していくことが肝要である。
障害のある職員が「自分は必要とされている」と実感できて働ける環境を継続させていくことが、今後の課題である。
執筆者:社会福祉法人 足利むつみ会 社会就労センター きたざと
副管理者 阿由葉 洋平
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