専門機関を活用した雇用準備からスタート
2018年度掲載
- 事業所名
- 株式会社北海道エアシステム
(法人番号: 2430001024432) - 業種
- 運輸・物流業
- 所在地
- 北海道札幌市
- 事業内容
- 航空運輸業
- 従業員数
- 91名
- うち障害者数
- 3名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 1 事務作業 発達障害 2 清掃作業、データ入力作業 - 本事例の対象となる障害
- 発達障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要
株式会社北海道エアシステム(以下「同社」という。)は「道民の翼」として平成9(1997)年に設立された。当初は新千歳空港内に本社を置いていたが、平成23(2011)年に丘珠空港へ移転する。平成14(2004)年から日本航空株式会社(以下「JAL」という。)のグループ(以下「JALグループ」という。)へ編入、一時期離脱するも平成26(2014)年に再度JALグループへ復帰する。現在は道内路線を中心に札幌から函館、釧路、利尻、三沢、函館から奥尻の路線が就航している。
企業理念として「安全を何よりも優先し、安全運航を堅持します。」「お客様視点の発想と行動で、顧客満足を追求します。」「活気に満ち、革新を生み出す企業風土を醸成します。」「自己研鑽とたゆまぬ努力で、企業価値の最大化を図ります。」「道民の翼として、地域や社会の発展に貢献します。」の5つを掲げている。2. 障害者雇用の経緯
常時雇用している労働者数が100名に満たない状況の中で、これまで積極的な障害者雇用への取組を進めることができていなかった。しかし、日本パラリンピック委員会のオフィシャルパートナーであるJALのグループ会社として事業展開していく中で、社会的責任を果たすために法定雇用率の達成を目指すこと、地域貢献の一環として障害者雇用に取り組むこととして、平成28(2016)年度より本格的な採用活動を進めていった。3. 障害者雇用前の取組
(1)取組前の障害者雇用についてのイメージ
同社における業務内容の多くが、運航乗務員、客室乗務員、整備士といった専門的な業務である状況から、障害者雇用の難しさを感じていた。また、障害に関する知識もほとんどなく、採用を行うためのノウハウもない状況であった。障害者のイメージとしては身体障害を強く持っていた。そのため、職場内の物理的環境から車いす利用者の採用は難しいと考え、軽度の身体障害者を雇用の対象と考えていた。
(2)専門機関の活用
障害について持っている情報が少なかった状況から、まずはハローワークへ連絡を取り、障害者の現状や障害に関する知識、障害者雇用に関する現状などの説明を受けることになった。さらに障害者雇用に関する理解を深めていくにあたり、ハローワークから北海道障害者職業センター(以下「職業センター」という。)の紹介を受けた。職業センターとのやり取りの中では、実際に職業センターへ通っている障害者と会う機会や、障害者向けに行われている講習に一緒に参加する機会を経るなどにより、障害者雇用に対する理解を深めていった。そのような経験を通して、「障害者=身体障害」のイメージから、発達障害などについて理解やイメージを深めることができた。採用を検討するにあたってイメージしていた障害の幅が広がり、物理的環境などの状況から身体障害者を採用することの難しさを感じていた中で、発達障害者の採用を進めていく流れへと変化していった。また、障害があったとしても、内容によって十分に業務をこなしていける力を有していると体感的に理解する機会となった。
具体的な発達障害者の採用に向けた取組としては、職業センター主催の事業主支援ワークショップへの参加を行った。ワークショップで実際に他企業がどのような取組をしているのかを知る機会を得た中で、「気軽に相談できる先輩職員」を設定するメンター制度の取組を知った。また、メンターを置くだけではなく、障害のある従業員同士の相性や関係性についても考えていく必要があることも確認できた。そのようなことを踏まえつつ、実際に職業センター職員が同社の就業現場を確認し、障害者が従事しやすい業務についてのアドバイスも受けた。
(3)事業所内の取組
採用に向け従業員に対し、障害者雇用に対する意識調査を実施した。その中で一緒に働いていくスタッフにも不安があることがわかり、管理職や配属予定部署のスタッフに対して、職業センターの職員を講師とする研修を行うなど、それぞれの立場への不安解消に向けた対応を行った。さらに、実際に障害者が従事する業務についてどのようなことが良いのか、スタッフへアンケートを実施して調整を進めることとした。アンケートでは、「今行っている業務で障害者を雇用した際にやってもらいたいこと」や、「今できていないが障害者を雇用した際にやってもらいたいこと」などについて回答をもらい、1か月ほどかけて確認・整理して対応を進めていった。一緒に考える機会を持つことでスタッフの意識づけにもつながった。
併せてメンター制度の導入も進めることとなり、メンター予定者は講習を受けるなど、雇用準備を進めていった。4. 障害者の採用及び雇用後の取組内容
(1)採用及び雇用後の取組
このような雇用準備を進めた後、実際の採用については職業センターとの調整と、ハローワークの職業紹介を経て、応募者の企業見学、役員との面談を行った。面談の際には職業センター職員も同席しサポートが得られる形をとった。そして、発達障害者2名の採用を決定する。
同社では、トライアル雇用の形は必要ないと考え、トライアル雇用を使わずに雇用を進めることとした。採用後、最初は午前中の3時間勤務とし、職業センターのジョブコーチ2名の派遣により業務習得を進めていった。ジョブコーチには一緒に業務を覚えコーチングをしてもらった。また、ジョブコーチから企業の担当者には、本人を中心にした座席表の作成など、発達障害の特性に合わせたわかりやすい情報提示方法などのアドバイスがあった。
採用から2週間が経過した段階では、勤務時間も9時から16時までと伸ばすこととなった。その際もジョブコーチより、短時間勤務では経験できなかった昼休憩の過ごし方などに関するアドバイスを受けた。
ジョブコーチの入るペースについては、当初は毎日一緒に業務に携わってもらっていたが、その後、週1回、2週に1回と徐々に回数を減らしていき、2か月ほどで終了となる。終了後は何度か電話相談を行う程度の活用となっている。
(2)担当業務と配慮
発達障害のある従業員は2名が勤務している。1名は清掃作業をメインの業務としつつ、そのほか必要に応じて軽作業などに従事している。はじめはジョブコーチが同席し、一緒に作業を覚えてもらったが、現在は基本的には一人で作業に従事している。業務を指示した際には、内容を十分に理解できているか確認するといった配慮が必要な場合がある。また、困ったときなどは自ら発信することで、メンターを中心に必要に応じた助言・指導を行っている。業務の成果(できばえなど)のフィードバックについては、メンターなどがこまめに声をかけて伝えることを心掛けている。
もう1名は、パソコンによるデータ入力や分析・評価を中心に従事している。聞いて覚えることが苦手な面があり、口頭で伝えたことやミーティングの内容について、自分で文字にして記録し、参照している。通常、特別の配慮は必要としていないが、少々込み入った作業などでは、細かく指示を伝えることが必要である。
昼休憩は1時間あるが、休憩室で過ごしたり、敷地内の違うところで過ごしたりと、それぞれのスタイルで休めるようにしている。また、通院に関しては休暇を取ることを認めているが、現在休日を利用しているようで、休暇を取ることはない。体調などにより勤務中に集中力が持続できない場合は、席を立つことが可能なように配慮している。
定期的な面談については、採用後しばらくは毎月行っていたが徐々に減らし、1年ほど経過した現在、特別なものは行っておらず、ほかの職員と同様に年1回程度実施している。
(3)スタッフの障害者理解について
部署内スタッフにおける障害のある従業員への理解については、職業センターの研修のほか、職業センターで本人が作成した自己紹介シートを確認することで、業務を行う上での十分な理解を得ることができている。実際に雇用してみると、業務の中で障害を意識することはあまりない現状であり、スタッフは本人の苦手な側面や得意な側面もその人の特徴としてとらえることができている。5. 今後の展望
現在、全体として発達障害のある従業員2名の他に肢体不自由のある従業員1名が働いており、障害者雇用についてはまず現状を維持していきたいと考えている。3名とも雇用の継続を希望しており、働きたいと思える魅力ある職場であることがうかがえる。また、雇用形態は有期雇用契約となっている。今後、他のスタッフと同様、職能や処遇、モーチベーションの向上などに向けた環境の整備なども必要と考えているとのことである。
同社は、障害者雇用への取組を手探り状態から始めた。不安もあったが、ハローワークや職業センターといった専門機関を活用しながら対応を進めることで、無理なく雇用を行うことができていた。障害者雇用に向けた取組を通して、目に見えやすい身体障害についてだけではなく、見えにくい発達障害に対する理解も進み、実際の雇用を通じて事業所全体としても障害に関する理解を広げていく機会とすることができていた。
障害者雇用を進めていく準備段階から専門機関を上手に活用して、一から体制を作り実践を進めている事例である。
執筆者:北海道医療大学看護福祉学部 近藤 尚也
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