地方都市における障害者雇用定着の一例
2018年度掲載
- 事業所名
- 株式会社プラテクノマテリアル
(法人番号: 6290801016887) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 福岡県田川郡福智町
- 事業内容
- プラスチック製品の再生、加工、販売
産業廃棄物収集運搬業、産業廃棄物処分業
- 従業員数
- 9名
- うち障害者数
- 2名
-
障害 人数 従事業務 知的障害 2 プラスチック部品の粉砕、圧縮 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社プラテクノマテリアル(以下「同社」という。)は、平成19(2007)年に、福岡県田川郡福智町において、自動車メーカーより排出されるプラスチック部品の再生加工販売を主たる事業として創業した。平成21(2009)年よりエコキャップ(ペットボトルキャップ)推進事業に参入。同年7月よりエコキャップを原料とした新製品(植木鉢)の開発に着手、10月よりオリジナルプランターの製造販売開始により、福岡県経営革新計画承認企業の認定を受ける。
また、平成30(2018)年2月には、リサイクル製品3点において福岡県産リサイクル製品制度の認定を受けている。
さらに、発展途上国へのワクチン接種活動への寄付、CO2削減活動などを通して、国際貢献や地域社会貢献活動にも取り組んでいる会社である。
同社の所在地である田川郡福智町は、福岡市と北九州市から40キロほど離れた筑豊地区にあり、人口は約2万2千人。昔は炭鉱業が町の経済を支えていたが現在は全て閉山し、跡地を工業団地として再利用することで再生を図っている町である。
同社はこの福智町の中心から少し離れた住宅地に位置し、従業員9名(うち男性7名)が2つの工場に分かれて作業を行っている。
(2)障害者雇用の経緯
主事業であるプラスチック部品の再生販売は、各取引工場からトラックで持ち込まれた部品を、「荷下ろし」→「仕分け」→「粉砕」→「ペレット再生加工」→「出荷」という工程を経て行われる。産業廃棄物処分業も請け負っており、こちらは仕分け後に、「粉砕」、「圧縮」という工程がある。
体力的にきつい仕事ではあるが、工程が分かれていること、やるべき作業内容が明確でわかりやすいことから障害者雇用に取り組みやすい業種であると言えるのかもしれない。
今回の取材に応じていただいたのは同社代表取締役社長の田中妥広氏(以下「社長」という。)であるが、先に述べたように社会貢献に熱心に取り組まれるなど、大変エネルギッシュで懐の深さを感じさせる方である。
障害者雇用のきっかけは、平成21(2009)年にハローワークから依頼があったことから始まる。
当時、障害者雇用促進法における障害者雇用義務は、従業員56人以上の会社に対して適用されるものであった(平成30(2018)年4月現在では、従業員45,5人以上の会社に拡大している)。同社は当時も現在も従業員9名であり、障害者雇用義務の対象ではない。しかし、ハローワークからの依頼を受け、社長は障害者の採用を即断。同年10月よりAさんを採用し、平成27(2015)年5月にはBさんを採用し、現在も両名の雇用を継続している。
なお、Aさんは、同社就職前に福智町にある社会福祉法人豊徳会を利用し、現在も継続的なサポートがあるとのことである。
社長は、「2人ともそれぞれ課題はあるけれども、一生懸命働いてくれます。覚えるまでこっちが何度も、繰り返して教えていかないとね。」と、気負うことのない柔らかな口調で話していたのが印象的であった。
取材当日、Aさんは持病の腰痛治療のため入院中であった。Aさんは64歳と社員の中では高齢の方であるが、腰が完治すればぜひ戻ってきてほしいと社長は復帰を待っていた。またBさんは両親同居で実家から通勤しているが、社長は日常の様々な相談を受けるなど、家族(主として母親)とも密に連絡を取りながら生活面の支援をしていた。自然な形で、日常生活を含めた全般的なサポートがなされており、就労生活の継続につながっていると感じた。2. 取組の内容と効果
(1) 障害者の業務と配置
同社では、フルタイムの常勤職員7名、6時間勤務の職員1名、週2~3日のアルバイト1名の計9名を雇用している。うち7名が男性、2名が女性である。
障害のある従業員は、前述のとおり2名の知的障害の男性であり療育手帳を保持している。次に両名の勤務状況や配慮点などについて紹介する。
ア Aさんについて
Aさんは、現在64歳であり平成21(2009)年10月に55歳で入社した。入社当時から一日6時間勤務で、今年勤続9年のベテランである。Aさんは、取材当日は入院中であり、直接会うことはできなかったが、社長によると「とても真面目で実直な人である。」とのことで、仕事ぶりも9年間の間に粉砕や圧縮を主として一通りの仕事を覚え、今では1人で任せられる部分も多いとのことでもあった。プラスチックの再生加工作業にはとても大切な要素である「色や材質の違い」も理解できており、何よりも「不安に思った時や分からない時に、すぐに質問してくれるところが安心です」との社長の言葉があった。
また、Aさんは文字を読むことができないため、手順書や説明書、貼り紙などで教示したり注意を促したりすることができない。しかし、社長は「実際やってみせることで教えています。問題ないですよ。」と笑顔で話す。例えば、材質の違いが分かりにくい部品があった場合、Aさんにはその判別法を文字で教示することができない。そのかわりに、「ライターで燃やして炎の色や匂いで判別する」方法を教えているとのことである。もちろんAさんにはライターの安全な扱いについても教示しており、きちんとルールを守って使用し、これまで問題を起こしたことは一度も無いそうである。
Aさんは地域のグループホームに住んでおり、自転車で出勤してくる。とても几帳面で物静かであり、与えられた仕事は最後まで正確にこなし注意するようなこともほとんどない。
しかし、時には几帳面さがAさん特有の行動として現れることもある。例えば、自分の自転車をとても大切にしており、大事に思うあまり「傷をつけられた」などと社長に訴えてくることがある。そのような時にはしっかり訴えを聞き、例えば自転車を仕事中も目の届くところに置くことを許可して安心させるなどの対応を行っているそうである。「とにかく話を聞いて、臨機応変に対応していますよ。それで安心するなら大したことではないですからね。」と社長は話す。
同社の定年は68歳だが、定年後のAさんについては「相談して決める。」とのこと。「働く気持ちがあり会社でできることがあれば継続雇用は可能。しっかり体を治してから相談するよう伝えています。」と社長は話す。
イ Bさんについて
Bさんは、ハローワークからの紹介で平成27(2015)年5月に入社。今年4年目になる46歳の男性である。
地元の出身で父母と同居しており、10分ほどかけてバイク通勤をしている。毎朝早めに出勤して遅刻や欠勤もなく、とても真面目に働いている。普段から小さいことでも会社は母親と連絡を取り合って情報を共有しており、そのことが雇用継続をしていく上での大きな安心感になっているとの話であった。
Bさんは、Aさんと同じく粉砕や圧縮の仕事をしている。しかしBさんには、集中力が続かないという大きな課題があるとのことである。仕事の途中で持ち場を離れて歩き回る、やりかけの仕事をそのままにして次の仕事を始めてしまうなどが現在も頻回に起こっているそうである。また、粉砕の機械の中に異物を入れてしまい故障させてしまったことも2回あった。そのため、Bさんにはまだ1人で仕事を任せることができず、機械を扱う時には必ず社員がついて補助をしている。また、集中力を持続させて仕事に戻すために頻繁に声かけが必要で、みんなに見守られながら仕事をしているそうである。
そうした状況を聞いていると、社員9名の会社では対応が大変そうにも思えるのだが、「この3年の間に、ゆっくりですができることも増えてきているんですよ。助かっています。」と社長は話す。
実際にBさんが仕事をしている場面を見学した。粉砕の機械に回収したプラスチック部品を入れる仕事で、大きな機械の中でプラスチックがバリバリと音を立てて粉砕されていた。Bさんは高い台に乗って、大きな投入口に身を乗り出すようにしながら部品を投入していた。室内は非常に暑く、厳しい環境の中で危険な業務に従事している様子がうかがえた。2メートルほど離れたところでもう1人の社員の方が仕事をしていたが、常にBさんの様子に気を配っている様子がわかった。
Bさんは見学者である私たちが気になり、こちらに目を向け手元を見ずに作業を進めてしまう。これは危険なことであり、気を配っていた社員の方も同行していた社長もBさんに手元を見るように促していた。その促し方は、遠くから声をかけるだけではなくBさんのところまで行き、直接体を持って体の向きを変え、目の前で見るべきところを指差して視線を誘導するというやり方であった。注意が散漫になりやすい特性を持ったBさんに対して、声かけだけでなく身体を直接誘導して注意を促す方法はとても適したものと思われた。自然な形でこのような方法が行われているということは、普段から社員がBさんをしっかり観察し、効果的な教示方法を模索してきた結果であろうと感じる場面であった。
(2) 就労を継続しやすい環境
同社では、知的障害のある2名とも長期の就労が継続できている。その理由として社員との良好な関係が築けていることにあるように感じられる。
同社では、昼食は全員が同じ部屋で食べているとのことである。AさんもBさんも、コミュニケーションが得意な方ではなく、自ら人間関係をつくっていくのは苦手のように見受けられる。それでも、先に述べたように社内での自然なサポートの体制ができあがっているということは、障害のある社員に限らず普段から社員同士の関係が密になるような環境がつくられているということではないかと思われる。
几帳面でこだわりが出やすいAさんにはしっかり話を聞いて対応し、注意が散漫になりやすいBさんには、みんなで目配りや声かけをしてわかりやすい教示をする、という障害特性にあった対応が自然発生的に定着している。
そうした環境が、Aさん、Bさんのような知的障害を持つ人の特性に合った職場環境づくりに自然につながっているように感じられた。
なお、同社では、両名の作業遂行や職場適応を支援するための社員を選任し、あたらせている。そのために、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の「障害者介助等助成金(業務遂行援助者の配置助成金)」を平成21(2009)年11月から受給している。作業現場プラスチック部品投入作業3. 最後に
取材の最後に、障害者雇用のメリット、デメリットについて社長に尋ねると、メリットについては「時間はかかったが、仕事を任せられるようになり、戦力になっていること。」と、「雇用に際しての助成金があること。」の2点を、デメリットについては「特に思い当たらない。」とのことであった。そして、障害者雇用を行ってみて、「知的障害があっても、ゆっくり時間をかければここまでできるんだなと感心した。」との言葉もあった。
実際に取材させていただいた中でも、Aさん、Bさんに対し「何度も何度も繰り返して教えていけばできるようになる。」と考え、たとえ大きな失敗があっても粘り強く実践を続けてきた社長の姿勢が印象的であった。
同社では、障害者雇用を進めようというトップの明確な意志のもと、障害特性に見合った作業の設定、長期的な視点での指導と見守りなどが、職場全体で自然に無理なく行われている。また、それらは家族や福祉制度、雇用支援制度などを活用しながら進められている。
こうした同社の取組は、地方都市における比較的企業規模の小さな企業において、障害者が安定して長く働くためのひとつのモデルになるものといえる。執筆者:福岡市障がい者就労支援センター
ジョブコーチ 大場 和美
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