募集・採用時の合理的配慮

面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること

面接時への支援者の同席については、対象者が希望せず、また、対象者に介護職での明確な就労希望があったこともあり、同席はしていない。
なお、対象者は特別支援学校高等部3年時に、自らホームヘルパー2級講座を受講し、卒業後に資格取得。同法人への応募に至る。また、同法人は「『働きたい』という意欲をもった人は積極的に受け入れる」が障害者雇用の理念。

その他の配慮

1. 当事業所について理解を深めてもらうために職場見学を実施し、対象者からの就労全般に関する質問に具体的に答えることで、対象者の不安や心配を解消した。また、労働条件など採用後の希望も確認した。
2. 対象者の障害特性や適性、体力のほか、対人面・生活面等の得手・不得手について丁寧に聴き取りを行い、就労上の配慮事項の把握に努めた。
3. 採用面接での質問や説明において、通常の面接よりわかりやすい表現を使う等の配慮を実施。

採用後の合理的配慮

業務指導や相談に関し、担当者を定めること

1. 実習部署の施設責任者、主任介護福祉士が対象者の指導担当（以下、担当者）になり、マンツーマンによる丁寧できめ細かな業務指導を行った。
2. 対象者は複数の指示があると混乱してしまうことがあるので、担当者を定めて指示系統を一本化したことで、混乱することなくスムーズに業務を習得することができた。
3. 対象者は、自分の思いを他者に伝えることが苦手なため、担当者が日ごろから声掛けを行うなどコミュニケーションを取るようにし、困っていること・不安なことをいつでも相談しやすい雰囲気を作って信頼関係を築いた。

本人の習熟度に応じて業務量を徐々に増やしていくこと

当法人では、特別支援学校の生徒については、在学中の職場実習で実務経験を積み、時間をかけてじっくり仕事を覚えていけるようにしている。特別支援学校の生徒以外についても、トライアル雇用や業務体験（職場実習）などを行っている。

対象者は介護補助作業業務で採用されたが、対人面や初期場面での緊張が強く、慣れるまでに時間がかかるため、当初は清掃や洗い物などバックヤードの仕事から始めた。清掃作業などに慣れた段階で、食事の配膳やお茶出しにも携わってもらい、少しずつ施設利用者（以下、利用者）と接する機会を増やしていった。そして、次のステップとしては、先輩職員の介護補助を担当することとしていたが、対象者は苦手だと思った相手とはうまくコミュニケーションがとれず、動けなくなってしまうことがあった。

そこで、先輩職員に付いて介護のお手伝いをしながら利用者と接する機会を増やすとともに、担当者は対象者に、利用者の好きなものや趣味の話、健康状態などを伝えて、一人ひとりに関する情報と親しみをもってもらえるようにした。対象者は利用者について理解し、接点が見つかることで話しやすくなり、自ら利用者の個人ファイルを見て話題をみつけたり、情報収集をするようになった。こうして対人面の苦手意識を少しずつ取り除き、介護業務にも加わるようになった。

身体介助から始まり、作業に対する自信や習熟度をその都度確認しながら、食事・整髪・着脱・排泄の介助にと一つひとつステップを踏んで担当業務を増やしていった。

対象者は、入職当初は仕事に対する意欲を内に秘めているタイプであったが、人や環境に慣れて、業務を一つずつ身に付け自信が深まるに従い、次第に自分の意思を表現するようになり、今では自ら「〇〇がしたい」と新たな業務に取り組む姿勢を見せるようになっている。

昨年、法人内の人事異動により担当者が異動、新たな主任介護福祉士が担当者となった。対象者は新しい担当者とも良好な関係を築き、安定した仕事ぶりを発揮している。新しい担当者も、「成長の段階に応じた指導の仕方に注意し、必要に応じて指導・助言しながら、さらに職域を拡げていってあげられるよう取り組んでいきたい」と考えている。

利用者のお世話をする対象者

食事の後片付けの様子

図等を活用した業務マニュアルを作成する、業務指示は内容を明確にし、一つずつ行う等作業手順を分かりやすく示すこと

1. 法人内では作業手順などを示した業務マニュアルを作成・活用しており、対象者にも配付しているが、マニュアルだけでは理解しにくい点は、その都度、担当者等が口頭により指導を行っている。作業手順に基づいて丁寧に説明し、言葉だけではイメージし難い作業や手順などは、主任（もしくは先輩職員）が実際に作業の仕方の模範を示し、必要に応じて図等も活用しながら、視覚的にも理解できるようにしている。
2. 業務指示は原則として一つずつ行うようにし、複数の業務がある場合は優先順位をつけて、混乱を招かないよう配慮している。

出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること

対象者は、週5日、9時00分～16時00分の1日6時間15分勤務している。
公休以外の休暇については、必要に応じて申請すれば休暇が取得できる体制を整えている。通院や体調不良をはじめ、障害に起因する休暇、勤務時間調整などは全面的に認めるようにしている。
以前に、対象者はぜんそく発作が起きて2週間入院した。このような突発的な体調不良による欠勤が発生した場合などにも、他の職員が対応する態勢を整えているので、対象者は安心して入院加療することができた。
当時の勤務シフトでは6日連続勤務をすることがあったため、対象者の体調を考慮して、その後は連続勤務を5日以内となるよう配慮している。
また、対象者が体調不良などの申し出が遅れてしまうようなことがないよう、担当者はカンファレンス時や日常会話などを通して対象者の心身のコンディションに気を配るようにしている。そのため、日ごろから信頼関係を築き、体調面などの不調について本人から相談しやすい環境づくりを心がけている。

本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること

1. 障害者が働きやすい環境を作るため、対象者の障害の状況や配慮事項などを職員全員に伝え、指導担当の主任と他の職員とで指導方針の統一を図っている。
2. 想定外の出来事に対して、とっさに判断、行動するのは不得手なため、自己判断が難しいと感じたことは、主任（不在なら他の職員）に必ず報告・連絡・相談をするというルールを決め、徹底させている。

その他の配慮

その他、対象者の指導にあたっては、以下のような点に留意している。

1. 1日4～5回（出勤した時、休憩時間、帰り際など）はカンファレンスの時間をとるようにしている。利用者は一人ひとり必要な介助が異なるので、それぞれの人に的確な介助ができるよう、カンファレンスの時間をとって確認している。こまめに確認することで、対象者は安心して、自信をもって介助にあたることができる。
2. 指導、注意をする際は、その理由まできちんと説明する。また、誤った介護は危険を伴うこともあるので、間違っていることはその場で速やかに指摘する。緊急性がない場合も後からまとめて指摘するのではなく、できる限り時間を置かず、その都度注意するようにする。そして、後からでもよいので注意した理由を説明して、しっかりフォローしている。例えば、「〇〇はいけない」と注意したら、すべての利用者に対して「〇〇はいけない」と理解してしまうことが考えられるが、そうしたことを防ぐために、「この人は腕が上がらないので、〇〇はいけない」というように、「なぜいけないのか」まで具体的に説明する。また、説明に際しては曖昧な表現を避けている。

主任との打ち合わせの様子