なし（新規採用ではないため）。

＜経緯と職場復帰時の合理的配慮（物理的環境の整備）＞
対象となる障害者（以下「対象者」という）は60代管理職男性。以前からペースメーカーを装着していた。
人員配置などの現場への指示、業務に関わる相談対応等、会社では重要な役割を担っており、人望も厚く、なくてはならない存在。定年（65歳）を数年後に控えている年代ではあったが、会社としては「定年後も継続雇用で働いてもらいたい」と考えていた。
平成28年10月、突然倒れ緊急入院。「突発性拡張型心筋症」と診断され、大学病院で人工心臓の埋め込み手術を受け成功する。その半年後、リハビリ入院中の本人から「職場復帰したい」という申し出があったことから、会社では復帰に向けた準備としてまず職場環境の整備を検討。特に下記の3点について対応することとなった。

1　対象者の所属部署は自社ビルの3階にあり、エレベーターはない。階段も狭く急勾配で非常に危険なため、対象者の所属部署を1階に移動。また机は出入り口にもトイレにも近い場所に配置する。

2　トイレが和式で通路も狭く、使用する際にしゃがんだりするのは身体への負担が大きく、手すりもないので危険。また対象者は歩行時に杖を使用し、さらには人工心臓のバッテリーを斜めがけで携帯する必要があるため、現状のトイレでは使用が困難。洋式への全面改修を行う。

3　人工心臓用バッテリーの緊急充電用として、通常コンセント（100v）から特殊コンセント（200v）へ変更する。
平成29年4月　 上記の整備に助成金等活用できるか高齢・障害・求職者雇用支援機構（以下「機構」という。）に相談し、トイレの改修は助成金（第1種作業施設設置等助成金）を申請することとした。同時に復帰後の雇用条件等の検討し、社内での受入体制の準備を進める。
平成29年10月　助成金を申請後改修工事に着手。和式から洋式に変更したほか、手すりをつけるスペースを設けるため入り口の向きを変更し、携帯バッテリーをかけ杖歩行することから、開き戸も引き戸に替えた。

改修前のトイレ

改修後のトイレ

＜職場復帰まで＞
総務部並びに企画部の社員が窓口となり復帰までを全面的にサポートした。対象者本人と家族、病院、会社との間に立ちさまざまな調整をおこなうほか、機構への相談、助成金の申請や改修工事の手配も担当。
＜職場復帰後＞
業務内容自体は復帰前と変わらないため、業務に関わる担当者は特に定めていない。しかし所属部署の社員など周囲がそれとなく気を配っており、歩行時や誰かの支援が必要な場合は、速やかにサポートをしている。

復帰時に労働条件を見直し一般の社員よりも30分短縮勤務（8時30分～17時）。
休日は会社の規程通り（土曜・日曜・祝日休み）。通勤は対象者の家族が車で送迎している。

およそ10か月の入院生活を経て体力も落ちていることも考慮し、出勤日数と勤務時間は月一回の定期検診等で健康状態を確認しながら、段階的に変更していくこととした。復帰した最初の週は、1日置きの出勤かつ半日勤務。2週目以降は身体の調子を見ながら徐々に勤務時間を長くしていった。

対象者の復帰にあたり、主治医と臨床工学技士を講師として会社に招き、同じ部署、同じフロアなど業務上関わりが多いと思われる社員を対象に、人工心臓についての説明会を開催した。それまでは「どのように接したらいいかわからない」「何かトラブルがあった場合はどうしたらいいか」など「知らない・わからない」からくる不安が社員たちの中にあったが、専門家によるレクチャーで人工心臓とはどういうもので、どんな注意が必要かなどを具体的に知ることができ、不安が軽減された。

助成金で改修したトイレは1階のみだが、その後「障害や持病の有無に限らず、怪我や体調不良の社員も安心して使えるように」と、会社の自費で2階と3階のトイレも洋式に改修。今回の取り組みをきっかけに社員に対する配慮の幅が広がった。