警備業界でも障害者は活躍できる
-キャリア教育と日々の情報共有による定着率向上と
アビリンピックを活用した雇用可能性の示唆-
- 事業所名
- ATUホールディングス株式会社
(法人番号: 1290001060575) - 業種
- サービス業、うち除外率設定業種
- 所在地
- 福岡県福岡市
- 事業内容
- 交通警備、施設警備、イベント警備、交通誘導、雑踏整理
- 従業員数
- 61名(令和7年6月1日現在)
- うち障害者数
- 27名( 同 上 )
-
障害 人数 従事業務 視覚障害 1名 事務対応 肢体不自由 9名 交通警備・駐車場警備・施設警備・イベント警備 内部障害 3名 交通警備・駐車場警備・施設警備・イベント警備 知的障害 3名 交通警備・駐車場警備・施設警備・イベント警備 精神障害 8名 交通警備・駐車場警備・施設警備・イベント警備、事務対応 発達障害 1名 交通警備・駐車場警備・施設警備・イベント警備、事務対応 高次脳機能障害 1名 交通警備・駐車場警備・施設警備・イベント警備 難病 1名 交通警備 - その他
- 障害者職業生活相談員
- 本事例の対象となる障害
- 視覚障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害、発達障害、高次脳機能障害、難病
- 目次
-
事業所外観1. 会社概要、障害者雇用の経緯
(1)会社概要
ATUホールディングス株式会社(以下「ATU」という。)は、福岡市に本社を構え、東京に支社を持ち、国内2拠点体制で警備業として交通警備、施設警備、イベント警備を展開している。
平成25(2013)年に代表取締役に就任した岩﨑龍太郎氏(以下「岩﨑氏」という。)は、「お店はお客様のためにある。しかし、会社の本質目的は社員の幸福を通じて社会に貢献することにある」と経営理念に定め、経営方針としては「社員の発達を保障し、万人が働ける場にする。」を掲げている。これは、「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズの著者である坂本光司氏(元法政大学大学院教授、以下「坂本氏」という。)の「人を大切にする経営」の考え方を反映したものである。
そして、ATUはこの理念・方針に基づき、就労機会の少ない障害者、高齢者、生活困窮者を積極的に雇用しており、障害者雇用については、その取組などが評価され、令和2年10月には「障がい者雇用優良事業所」として福岡県知事表彰を、令和5年3月には優良な中小事業主として「もにす認定」を受けている。
本稿ではATUの障害者のスキルアップによる定着率向上と全国の同業者である警備業界へ障害者雇用を周知するための挑戦について紹介する。
なお、ATUについては、下記のとおり、過去2回、本リファレンスに掲載しているが(下記リンク参照)、今回はその後の取組なども加えたものである。そのため、一部内容に重複している点があることはご了承いただきたい。
障害者へのキャリア教育の充実と日々の情報共有による定着率向上の事例
https://www.ref.jeed.go.jp/2019/2019065.html
障害者の職域をひろげる ~アビリンピックで初のデモンストレーション~
https://www.ref.jeed.go.jp/2019/m213q8000000t8gs.html
(2)障害者雇用の経緯
岩﨑氏が代表取締役に就任した時は、ATUに障害のある社員はゼロであったが、岩﨑氏の大学院時代の恩師でもある坂本氏は著書の中で、企業が社会から必要とされる要件のひとつに障害者雇用があると熱く語っていた。同氏が全国各地の企業を訪問し、調査を重ねる中で、障害者雇用に真摯に取り組んでいる企業ほど、社員一人ひとりを大切にしている傾向があり、そのように社員を大切にする姿勢が組織全体の力を高め、結果として会社の発展を支える原動力となっていることが明らかになっていた。
岩﨑氏が障害者雇用に取り組むようになった背景には、この考え方に触れ、深く共感したことがある。精神障害者保健福祉手帳を保有し、ATUの障害者雇用1期生として入社したAさんは勤続11年であり、現在は交通警備の現場から事務所の内勤業務までを担当しつつ、会社のキーマンとして働いている。彼の頑張りを見て、岩﨑氏は障害者も会社の戦力になると確信し、積極的に障害者を採用してきた。現在までに27名の障害者が入社し一緒に働いている。今では、全国的にも数少ない、障害のある社員が多数働く警備会社として知られるまでになった。
警備業界で働いてきた岩﨑氏は、障害があることを周囲に明かさずに業界で働いている人が少なくないことを知っていた。見方を変えれば、障害があっても警備の仕事を十分に担える人材が、警備業界内に数多く存在していると言える。このことを業界全体に伝え、「障害がある=警備は難しい」という先入観を変えることが、警備業界における障害者雇用の促進につながると岩﨑氏は考えている。
2. 障害者の従事業務と職場配置
(1)従事業務
ア 施設警備業務(精神障害者、知的障害者、身体障害者)
地方銀行本店での駐車受付/料金回収、物流センターでの巡回警備/入庫受付/入館受付業務、官公庁舎の巡回警備/受付業務。
イ 交通警備業務(精神障害者、知的障害者、身体障害者)
工事現場/実店舗の駐車場警備/博多港での交通誘導、花火大会/初詣などのイベント警備。
ウ 事務業務(視覚障害者、発達障害者)
電話応対、受理発送業務、道路使用許可申請の書類作成/図面作成補助業務。
(2)職場配置
ATUでは、職場配置や配置転換において、IPS(Individual Placement and Support:個別就労支援)モデルの考え方を採用している。何よりも大切にしているのは、「本人の希望」である。はじめて現場に立つ人は「外での交通警備はきつそうだ。エアコンの効いた室内で働きたい。」と考えることが多い。そのため、施設警備を希望するケースは少なくない。しかし、実際に現場に入ると、そのイメージは大きく変わる。施設警備は「楽な仕事」ではない。事務作業に追われ、気を抜く暇はなく、時にはクレーマーの対応にも向き合わなければならない。その現実を体感し、たった1日で「交通警備の方が自分に合っている」と考えを変える人も多い。だからこそATUは、実際に経験し、自分自身で選び直すことを大切にしている。
また、ATUでは配置転換や昇進・昇格について「挙手制人事」を採用している。年齢や経験に関係なく、要件を満たせば、誰でも毎月、昇格試験に挑戦できる。しかし、この制度の本質は「誰でも挑戦できる」という点だけではなく「手を上げない」という選択を尊重することにある。人には、それぞれのペースがあり、それぞれの望む働き方がある。今いる場所で力を発揮し続けるという選択も同じように価値があるとATUでは考えている。
(注)IPS(Individual Placement and Support:個別就労支援)モデル
当事者の「働きたい」という希望を大切にしながら、当事者のチャレンジを応援するオーダーメイドの伴走型個別就労支援。①働きたいすべての当事者を支援の対象とすること、②個々の好みやニーズ、長所に合わせて仕事探しをすること、③個別支援や訪問支援を基本とすること、③実際の職場で働きながら必要なスキルを身につけることを支援するなどに大きな特徴がある。(出典:「日本IPSアソシエーション(JIPSA)」ホームページ)
3. 取組内容
(1) 募集・採用の取組
ATUでは、障害の有無に関わらず、本人が安心して働き続けられる環境づくりを前提とした採用活動を行っている。具体的には、採用段階における職場見学や職場実習(以下「実習」という。)の受入れを積極的に行い、障害者が実際の業務内容や職場環境を事前に体感できる機会を提供している。特に、特別支援学校の在校生や福祉事業所利用者などについては、見学や実習を随時受け入れ、早期から就労イメージを持てるよう支援している。これにより、入社後のミスマッチを防ぎ、本人の適性や希望に基づいた就労につなげている。
また、障害特性などについては支援機関などと連携しながら丁寧に把握し、必要に応じて合理的配慮の提供を行っている。見学や実習の際にも連携しながら障害特性などを把握し、必要な配慮の提供にするための参考にしている。
さらに、外部の支援機関と密接に連携し、制度の活用や定着支援を含めた包括的な支援体制を構築している。社内においては、職場適応援助者(ジョブコーチ)や障害者職業生活相談員を配置しているほか、人事部門を中心に各現場と連携しながら、ジョブコーチ機能を担う支援体制を確保している。
加えて、ATUでは先述のとおり、IPS(個別就労支援)モデルの考え方を踏まえて、「その人に合った仕事で働くこと」を最優先としている。そのため、配置後に担当業務と適性が合わないと判断された場合には、社内での配置転換を考える。さらに、必要に応じて同業他社や他業種他社への就労機会の紹介を行うなど、本人の人生全体を見据えた支援を行っている。就労の継続が困難な場合には、生活基盤の安定を最優先とし、関係機関と連携のうえ生活保護の申請支援も行う。これらの取組は、「雇用すること」を目的とするのではなく、「その人が自分らしく生きられること」を目的としたものであり、本人主体の持続可能な雇用の実現に取り組んでいる。
(2)定着率向上への取組
ア 警備員のキャリア教育体系の構築と個を組織の力へ変える定着支援
警備業界では、入職者の早期離職が大きな課題となっており、特に交通警備を主とする中小警備会社では、入社後1年以内に半数近くが離職するとも言われている。こうした業界環境の中で、障害のある人を雇用し、定着と戦力化の両立を図ることは難しいと考えられており、ATUも創業当初から、その課題に継続して取り組んできた。
令和元年当時、ATUでは、警備員としての基礎技能を短期間で習得させるため、次の(ア)・(イ)にあるSUT(スタートアップトレーニング)、ST(サポートトレーニング)、HST(ハイエンドサポートトレーニング)からなる段階的な教育体系を整備し、現場OJTと社内外訓練を組み合わせた育成を実施していた。これにより、従来5年程度を要するとされていた戦力化までの期間を約2年に短縮し、一定の成果を上げている。
また、現場への直行直帰が多い勤務形態に対応するため、ATUでは日々の体調や業務状況を把握・共有する仕組みを、クラウドを活用して構築してきた(下記(イ)参照)。こうした基盤的な取組は現在も継続されている。
(ア)ATUにおける警備教育の体系
警備教育の体系
(イ) 警備教育の内容ATUではスキルのレベルに応じて5段階のスキル階級を設けている。そして、現場でのOJTと並行して、社内訓練と外部訓練を行い、成長を目指す。社内訓練がATU独自の取組であり、次の3種類がある。
・SUT:スタートアップトレーニング
新たに入社した者に対し、シニアトレーナーが、心の開拓と徹底した基礎技術を約1か月実施する。査定後、スキル階級「警備員見習い」に昇格する。
・ST:サポートトレーニング
SUT修了後から入社後半年までの間、毎週1回の現場研修と、2週間に1回の実地振り返り研修を実施する(映像デジタルツールを使用)。外部訓練は普通救命講習、防災管理者講習などを受講する。査定後、「ガード(警備)」に昇格する。
・HST:ハイエンドサポートトレーニング
ST終了後から入社後2年までは2週間に1回の外部訓練対策(交通雑踏施設2級など)、外部訓練に加え、サブトレーナーとして必要な警備指令書の作成を毎週1回実施する。査定後、「サブトレーナー」に昇格する。
イ クラウドサービス活用による一人ひとりの可視化
日々の体調や業務状況について、クラウドサービスを活用し、上司・同僚などがスマートフォンで情報共有するようにしている。警備員は現場への直行直帰が多く、朝夕のミーティングを行うことも難しい。また、一人で勤務することも多い。そのため、障害のある社員の状況把握が不足することで、心のケアや業務上の支援が滞り、課題の発見と解決が遅れることで結果として職場定着が進まないことが、一つの阻害要因だった。
そこで、情報共有を行うために本人との同意書を交わした上で、障害のある社員が日々の状況をスマートフォンでクラウド上にアップし、全社員と支援者が情報を共有できるようにした。その結果、障害のある社員と周囲のコミュニケーションが進み、障害のある社員の体調不良の予兆や突発的なトラブルへの対応が即座にできるようになった。
また、障害のある社員自身が自分の体調管理をうまくできるようになったほか、心のケアや技能の向上が進み、働きやすい職場への改善につながった。この結果、病気や障害状況の悪化などに伴う長期間の休職者や離職者が少ない状態を維持できている。
近年はそれに加え、日々の状態把握と組織的な対応をより強化する運用へと発展している。その中心にあるのが、ATU独自の「3点報告」である。
これは、①現場の引継ぎ、②自己の状態、③他者の状態の3点をそれぞれ13文字以内で報告するものであり、単なる業務報告にとどまらず、個々の体調変化や現場のリスク、周囲の状況を把握する役割を持っている。警備業務は単独行動が多く、対面での情報共有機会が限られるため、こうした多面的な報告を日常的に行うことで、孤立や見落としを防ぐ仕組みとなっている。
以上のように、ATUでは、従来からの教育体系に加え、日々の情報共有と対話を組み合わせた仕組みを構築することで、定着支援の強化を図っている。これらの取組は、個々の能力に依存するのではなく、組織として支える体制を整えることで、警備業務における安定的な就労の実現に寄与している。
一方で、日々の体調の変化や本人の主観的な状態の把握については、就労定着支援システムSPISを活用している。SPISでは、本人が入力した体調や状態の記録を継続的に確認することができ、経過を振り返ることで、自身の状態への気づき(自己認識)を促す役割も果たしている。
さらに、ATUではこれらの記録をもとに面談を実施している。面談では、SPISに蓄積された体調や主訴の経過を確認しながら、本人の状態や課題を整理し、必要な対応や働き方の調整について検討する。日々の記録と面談が連動することで、本人の理解と納得を伴った支援が可能となり、就労の安定につながっている。
これらの取組は個人単位の支援にとどまらず、組織全体の運営にも影響を与えている。
ATUでは、現場で発生した問い合わせやトラブル、リスク情報を共有し、対応方法を蓄積することで、個々の経験を組織知として活用している。例えば、年末年始の雑踏警備など高い対応力が求められる現場においても、情報共有を基盤とした運営により、状況変化への対応や苦情対応が組織的に行われている。

クラウド活用のスキーム図
(注)SPIS(Supporting People to Improve Stability)
SPISは、おもに精神障害者向けに開発されたマネジメントツールで、日報をWeb化したもの。職場では、精神障害のある従業員などが、心身のコンディションを自己評価して記録(発信)し、企業の担当者(上司や人事部門など)や外部支援者(臨床心理士など)とリアルタイムで情報共有することで、円滑なコミュニケーションを図るとともに、不調予防や早期の対応を可能にすることを目指している。記録された内容は上司らが随時チェックし、相談・助言などを行うほか、外部支援者も助言できるシステムとなっている。(SPISの普及を行う全国精神保健職親会のホームページを参考に機構で作成)。
(3)障害のある警備員の技能向上と職域拡大への取組
ア アビリンピックへの継続的な取組による技能向上と社会的認知の拡大
警備業における障害者雇用は、法改正により制度上の制約が緩和された後も、依然として十分に進んでいるとは言い難い状況が続いている。こうした背景のもと、ATUでは、障害のある人材が警備員として実務に従事できることを社会に示す必要があるとの考えから、技能の可視化と社会的理解の促進に取り組んできた。
その一環として、令和元(2019)年に福岡県で初めて実施されたアビリンピック福岡大会における警備分野のデモンストレーション競技(交通誘導及び雑踏警備)(以下「デモ競技」という。)は、その後の取組の起点となっている。令和2(2020)年及び令和3(2021)年はコロナ禍でデモ競技の開催がされなかったものの、令和4(2022)年以降はデモ競技が再開され、令和7(2025)年まで継続して実施されている。これにより、通算5回の開催実績となり、継続的な取組として定着している。
競技内容は交通警備と巡回警備である。特別支援学校の生徒や企業に就労している障害のある方が参加し、実際の警備業務に近い形式で技能を競うことにより、実務能力の可視化が図られている。
県内の警備業関係団体や企業による福岡大会の見学は継続的に行われており、実際の技能を直接確認することにより、障害者雇用に対する理解が進むとともに、警備業務における業務設計や育成方法に関する関心の高まりも見られる。
また、デモ競技は観覧者や関係機関に対する理解促進の場としても機能している。大会の様子は新聞やテレビ等のメディアでも取り上げられており、障害のある人材が警備業務に従事している実態が広く発信されることで、従来の固定観念の見直しにつながっている。
このように、アビリンピックにおけるデモ競技は、技能向上と社会的認知の双方に寄与する仕組みとして機能している。警備分野における障害者雇用の可能性を具体的に示す取組として、一定の意義を有するものと考えられる。

福岡大会における巡回警備競技場面イ 特別支援学校・就労支援機関との連携による就労機会の拡大
特別支援学校においては、卒業後の進路確保に加え、在学中の職場実習先の確保が重要な課題となっている。特に警備業務のように屋外での業務や安全確保が求められる職種については、学校側や保護者から不安の声が挙がることも少なくない。
ATUでは、こうした状況に対し、特別支援学校や就労支援機関と連携しながら、交通警備に関する職場見学や実習の受入れを行っている。実習の実施にあたっては、安全面への配慮や業務内容の段階的な提示などを行い、本人と関係者が業務内容を具体的に理解できるよう工夫している。
また、個別のケースにおいては、学校単独での判断が難しい場合もあるため、就労支援機関や関係団体との連携を通じて説明や調整を行うことで、実習の実現につなげている。こうした取組により、従来は選択肢として想定されにくかった警備業務についても、進路の一つとして検討される機会が広がっている。
さらに、アビリンピックのデモ競技や現場見学などを通じて、実際に働く姿や技能を確認できる機会が増えたことも、理解促進に寄与していると考えられる。単なる情報提供にとどまらず、実際の業務に触れる機会を設けることが、就労への不安軽減につながっている。
このように、学校、支援機関、企業が連携しながら段階的に理解を深めていく取組は、警備業界における新たな就労機会の創出に一定の効果をもたらしているものと考えられる。ウ 企業間のネットワークと実地見学による理解促進
障害者雇用を進めるにあたっては、制度や理念の理解に加え、実際の現場運用を具体的に把握することが重要とされている。そのため、企業間での情報交換や現場見学の機会は、実務的な理解を深めるうえで有効な手段だと岩﨑氏は述べる。ATUにおいても、同業他社や異業種他社・関係団体からの見学受入れや意見交換を継続的に行っている。見学者は、警備現場の運用状況に加え、社員の配置、動線、安全確保の方法、情報共有の仕組みなどを実際に確認することができる。これにより、障害のある人材が現場でどのように役割を担っているかについて、具体的な理解が得られる機会となっている。
また、企業が社員を大切にしているかどうかは、日常の職場環境にも表れると岩﨑氏は考えており、現場の整理状況や設備、作業服、掲示物などの状態は、その指標として重視している。こうした視点からの見学は、実雇用率の達成などの制度理解にとどまらず、社員の働きやすい職場づくりの参考にもなっている。
さらに、近年ではアビリンピックのデモ競技などを契機として、警備業における障害者雇用に関心を持つ企業も増加しており、見学や意見交換の機会を通じたネットワーク形成が進んでいる。こうした企業間のつながりは、各社の取組を相互に補完し合う関係性の構築にも寄与している。
このように、企業間のネットワークと実地見学を通じた取組は、個々の企業の取組を深化させるだけでなく、警備業界全体における理解促進と実践の広がりにつながっている。
4. 障害のある社員(古川さん)の声
入社して4年目。主に交通警備を担当している。前職は長続きしなかったが、今の会社は丁寧に仕事を教えてくれ、同僚や契約先の人も調子が悪い時にすぐ気が付いて声をかけてくれるので続けられている。「ありがとう」と言われることやいろんな経験をできることにはやりがいを感じる。自分の得意なコミュニケーションを活かせる天職だと思っている。半年前から班長に選ばれたので、指導的なこともしているが、今後は班長としてみんなが働きやすくなるよう会議等で提案していきたい。
交通誘導をする古川さん5. 担当者の声
総務・経理業務に加え、隊員のサポート業務を行っている寺園氏に話を聞いた。
弊社は障害特性の有無に関わらず、いろんな価値観を持っている方がおり、誤解によりぶつかることも多いと感じている。業務を円滑に進めるためには、俯瞰的に物事を見てもらうことが必要であり、この観点から隊員同士の仲介や助言を行っている。トラブル対応等で苦労も多いが、隊員から「業務が無事終わりました。」と連絡が来ると、この仕事をやっていてよかったと思う。障害者は十人十色であり、障害の特性の枠にはまらないと思っている。だから、これから障害者を雇う方には見聞きしたことだけで、障害特性に固定観念を持たないでほしい。障害を見るのではなく本人を見て接することが支援につながると思う。
岩崎氏(写真左)と総務・経理担当の寺園氏(右)6. 今後の展望と課題
取材の最後に岩﨑氏は次のように話している。
ATUでは障害のある社員が働けるように交通警備の在り方そのものを変えてきた。警備会社は一般的には工事現場の騒音等に対するクレームの処理や地域住民の理解促進に向けたチラシ配り、道路使用許可の申請などはしない。しかし、ATUではそれらを付加的なサービスとして実施している。
障害者が警備できるようになるためには障害者が警備しても安全であるということを示す必要があり、その都度サービスを積み上げていくことにより障害のある社員が工事現場で働ける環境づくりができる。また、超長距離無線機を導入し、隊員(ATUにおける社員の呼び名)とサポート役が常時コミュニケーションを取れるようにしたことも顧客である工事現場からの信頼と本人の安心感につながっている。
こうした取組は社員が社員に気付きを与えて実現してきたものであり、それが組織を強くしていると強く実感している。会社の経営方針にある「万人が働ける場にする」を社員一人ひとりが理解している職場だからこそなしうる姿であると考えている。
一方で、「万人が働ける場にする」ためには、更なる環境整備や支援の工夫が求められる。多様な特性に対応した業務設計は、今後の課題の一つである。例えば、警備業をはじめとする安全確保を重視する業種では、視覚障害者の就労は依然として進んでいない分野である。今後は技術の活用や業務の工夫を通じて、多様な障害者の就労可能性を広げていく取組が求められる。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
障害者雇用開発推進部 雇用開発課
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