事業所名

埼玉福興株式会社

所在地

埼玉県熊谷市

事業内容

知的障害者援護施設の管理運営、農産物の生産及び販売、各種製造（オリーブ塩漬け等）、各種自立支援事業のサポート

従業員数

7名

うち障害者数

2名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害
聴覚障害
肢体不自由
内部障害
知的障害	2	施設栽培管理業務 圃場（ほじょう）業務
精神障害

目次

1. 障害者雇用の経緯と背景
2. 職場配置・作業内容
3. 関係機関・家族との連携体制について
4. 定着支援・受入れについてのポイント
5. 今後の課題・展望

ホームページアドレス

http://saitamafukko.com/

社長ブログ

～ソーシャルファーム日記～ 障がい者就労支援を軸に日本の農業を担う。

1．障害者雇用の経緯と背景

設立：1996年5月20日

勤務時間：原則　9：00～16：00（※ただし季節によって変動あり）

企業理念：「家族という形」・「労働力の主力となって働く」をテーマに、障害者がさまざまな形で社会的に自立できるような環境を創出し、障害者と共に人生を歩む環境とシステムを創造することを目的とする。

・平成5年、知的障害者の生活寮からスタートし、障害者の働く場がない現状を鑑み、自分たちで就労の場を作るしかない現状にあった。

・障害者が通年安定して働くことができ、かつ、働くことで障害者が社会的に自立できる活動の場を提供することを目的として、平成8年に法人化された。

・ボールペンの製造など、さまざまな下請けをしてきたが、年々仕事は中国に移行し生産調整・海外移転を余儀なくされ、景気や企業の業績に仕事量が大きく左右されるなど、下請け業を脱しなければ存続できないと考えていた。

そこで、食料に関われば需要が大きく減ることもなく、自分たちの努力で仕事を増やすこともできる。また、地域の活性化にも直結し貢献ができるとの思いで、障害者でも就労可能な農業分野の研究に乗り出す。さまざまな苦難の末、当時、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構が発行している障害者雇用月刊誌『働く広場』で、富山県にある※有限会社野菜ランド立山の水耕栽培で障害者雇用をしている記事に出会う。

実際の職場見学を希望し出向いたところ、当社の今までの研究から「農業を数字で経営しており、しかも障害者のための最高のシステムである」と一瞬で確信した。

※参照：有限会社野菜ランド立山 （独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構リファレンスサービス）　https://www.ref.jeed.go.jp/18/18037.html

そして平成18年、地元農家から借りた300坪の土地にビニールハウスを建て、サラダほうれん草を作り始めた。障害者でも農業に従事できる最高のシステムであるとの思いから、現在の水耕栽培にたどりついた。

安定した品質と収穫量が評価され、JRグループ会社や生協などからも契約を得られるまでに成長を遂げた。

現在はサラダほうれん草の他、水耕栽培による葉物野菜、イタリア野菜、花の栽培、オーガニックにこだわった「梨玉葱」、さらにオリーブ農園も展開している。オリーブは温暖な気候で栽培され日本では瀬戸内海の小豆島が有名だが、小豆島から技術提供を受け、埼玉県熊谷市で日本最北端の「埼玉オリーブ」の生産に力を注いでいる。

また、当社は地域の高齢者、障害者、若者たち、色々な世代がリンクし、新しい形の農業生産工場を目指し、希望と誇りを持って就労出来るよう、新たな使命を帯びた地域活性化に貢献することを目指している。

「オリーブ農園」埼玉県熊谷市で日本最北端の「埼玉オリーブ」で世界進出を目指す

「水耕栽培ハウス」水耕栽培・ハウス栽培を行い、
葉物野菜、イタリア野菜、花までと栽培品種は多種にわたる

2．職場配置・作業内容

当社では水耕栽培と畑での農作業の業務を行う。畑での作業については、野菜や畑に関する専門的な知識、経験が必要なため、その部分には地域のプロの農家さん（高齢者）と共に業務を行う仕組みを作っている。経験が必要でない部分は障害者、農業の経験が必要な部分は高齢者という、障害者＆高齢者での農作業にチャレンジしており、高齢者雇用への道筋も見えてきた。それぞれの障害特性を判断し、工程の分割などの通常業務での作業の工夫を農業でも生かし、出来る仕事を任せる事で作業を進めている。

また、役割分担を定め、次の2つのことを基本にしている。

①一通りの工程を経験させる

②本人の自主性を尊重し、本人に選択させる

経験させることによって「自分にできる、できない」を障害者自身に会得させる。一般的に自尊心が強い傾向にある事も多く、自分で選んだ役割は他人に負けまいと熱中する。実習によって、適正可否を判断した上、工程の分割や集約、段取りを変更するなど、能力に見合った工程設定を行うようにした。

「施設栽培管理業務」

①ハウス内洗浄業務

②ハウス内管理業務

③花・野菜苗仕上がり検査業務

「圃場（ほじょう）業務」

①農家補助業務（苗の植え付け・肥料・収穫等）

②生産物検査業務

埼玉福興のメンバーとして日々仕事に励む障害者のスタッフ
（左）栽培資材清掃業務の様子 (右)栽培ベンチ清掃業務の様子

3．関係機関・家族との連携体制について

・ これまで、業務の目的ごとに農林振興センター、北部地域振興センター、埼玉県雇用開発協会、社団法人全国重度障害者雇用事業所協会の会員企業、NPO法人、全国の障害者を雇用している会社、地域の農家、地域の高齢者、その他地域の人々等、さまざまな人達からの支援を受け、研究を重ねてきた。障害者が実際に就労している現場を見学し、農業をやる上での障害者との接し方、問題点の対応の仕方、管理指導体制などを直接聞く機会を得たことは大変役に立った。

・ 栽培指導などは農林振興センターに全面的に支援をいただいてきた。現在もトラブルの対処など支援をいただいているので心強い存在である。

・ 地域のグループホームなどの受入れが中心のため、生活の場であるNPO法人と就労の場である会社との間で、障害者本人の特性や就労上の留意事項について相談ができる。生活と就労が密着しているため就労定着を図るうえで理想的な環境であるといえる。

・ 障害者雇用だけでなく、地域の就労継続支援事業所との連携で、仕事自体のワークシェアリングも行っている。

・ 新たな取り組みとして、埼玉県障害者雇用サポートセンター、さいたま障害者就業サポート研究会（通称サンライズの会）でのネットワークを通じて、埼玉県内にある特例子会社※株式会社エム・エル・エス（株式会社松屋フーズの特例子会社）の花の事業を請負い、障害者雇用企業の連携で共に仕事を創造している。

・ 家族との連携も非常に重要なポイントである。

※参照：株式会社エム・エル・エス （独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構リファレンスサービス）

https://www.ref.jeed.go.jp/18/18025.html

4．定着支援・受入れについてのポイント

①相手とのオープンなコミュニケーションを大切にすること

・ 受け入れの大事なポイントは、「何の薬を飲んでいるか」「どんな傾向があるか」などを本人や支援者にはっきりオープンにしてもらう。それが、業務上の事故を未然に防ぐため、一番大事なポイントと考える。日々のコミュニケーションでは、常に話しやすい雰囲気作りを心掛けている。例えば相手がゲーム好きならゲームの話を、サッカー好きであればサッカーの話をする等、一人一人の興味にあわせた話題を会話のきっかけとするなど工夫している。当然、みんな一人一人全く違う個性を持っている。話をすること自体が嫌であればそれに合わせたコミュニケーションを行う。しかし、あくまでも仕事中心でのコミュニケーションが大切である。重度の知的障害者にとっては、必ずしもコミュニケーションが先でない。あくまでも一人一人にあわせた配慮を大事にしている。

②健康管理ができ、働く意欲を持っていること

・ 定着への配慮で一番大事だと考えているのが健康管理である。受入れについても同じ考えである。自分で働きたいという意欲があり、健康であること。それを維持させることが大事であるとの考えから、寮生全員、片道2キロメートルの農場まで歩いて通勤、作業終了後も歩いて寮へ帰る。毎日の規則正しい生活が「働くこと」にも好影響を与えると考えている。他の人の力を借りず公共機関を利用しての通勤ができる事が受け入れの要件でもある。

③一定程度の協調性があり、複数人での並行作業に順応できること

・ 農業分野でも製造業における「5S（整理・整頓・清掃・清潔・しつけ）」と「ほうれんそう（報告・連絡・相談）」を現場の重点課題に位置付けている。特に相談に関しては重きを置き、決して時間を惜しむことなく、社長や生活相談員による相談体制を取っている。

・ 複数人の雇用が重要であると考えている。色々な障害を持っているような個性豊かなチームのほうが協調性

も増すと考える。

・ 農業では、水耕栽培での仕組み自体が安全・安心なシステムである。かがむ事もなく、危険な作業もなく、重たいものも持つ等の重労働もなく、毎日同じ仕事が続けられ、能力の蓄積ができる理想的な作業環境である。

「しかし常に現場はトライ＆エラー。「任せてみよう、やらせてみよう」という精神が大切」 上記①～③であげた点は障害者に継続して長く働いてもらいたいからこその基準である。最初から全てを兼ね備えた人は当然いないし、選りすぐりの人のみを受け入れているわけでもない。「現場でケガをしたらどうしよう」「どうやって障害のある人とコミュニケーションをとればいいのだろう」と不安を挙げればきりがない。このように事業主が不安になってしまっていては、いつになっても障害者雇用は進まないはずである。

当然、障害者一人一人個性もあるので、人や環境（当社で働くといういうこと）との相性の良し悪しもあるが、まずは「任せてみよう・やらせてみよう」という精神を大切にしている。

まずは相手を信頼し、任せてみることで可能性の道が広がる。こういった精神が、さらには既存にとらわれないオリジナルの製品開発や新規事業の発想、原動力にもなり、会社の成長にもつながるのだと信じている。

5．今後の課題・展望

・ 経営規模を拡大して、障害者雇用の増員をはかることを目標にしている。

・ しかし最大の貢献は、日本の食糧自給率の問題に障害者が農業の担い手として貢献することだと考えている。雇用だけにこだわらず、地域の就労支援事業所、高齢者、農家、福祉団体、地域住民と連携してソーシャルファームとしての創造を進めていく。農業と福祉の連携で日本の食糧を支える組織を目指している。

・ そのための支援は惜しまない。全国各地から、障害者の雇用を目的に創業を計画している人々の工場見学にできる限り対応し、培ったノウハウを提供するなど、障害者の雇用増大につながることに貢献する。

・ 最後に、有限会社野菜ランド立山の故宇治社長が培ったノウハウを受け継ぎ発展させ、それを障害者雇用拡大のために惜しみなく提供することを約束する。